episode 4

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部屋にお邪魔するのは社会人になって初めてで学生の頃の二人の楽しい記憶が蘇ってくる。 一花とは最初私が転校して来た六年生から中学生迄同じで高校はそれぞれ別々の学校へ進学したけれど仲も良かったし家も近いからたまに会ったりケーキを買いに来たりしていた。 私が社会人で一足先に働いているせいか一花は毎回の様に会社の話を聞きたがった。 大人になりきれていない右も左も分からない十八の女の子が人生の先輩でもある沢山の大人に囲まれて入社当時は毎日が緊張の連続で五キロ痩せた話とか、幾つもの仕事を覚える為にノートに走り書きをして三日で一冊消費していた話、それから最近先輩から大事な仕事を頼まれる事が多くなりやり甲斐を感じているなどそんな話でも一花は何時も興味津々に聞いていた。 こんな話を会う度にしている私は一花にどうして私の会社の話ばかり聞きたがるの?と一度だけ聞いてみた事があった。 すると「美羽を尊敬しているから。」とそんな風に言われて驚いたのを覚えている。 両親が居ないけれどそれでもその悲しみを少しも見せずに毎日を頑張って送っている明るい強い美羽が好きなんだそう。 私には残念ながら一つもしっくりとくるものは見当たらなかったけれど一花にはそう映っているのならば暗くてジメジメとした私よりは断然良い。 私がこのままの私で居られれば一花はずっと仲良く側に居てくれるのだと思えた瞬間でもあった。 最近お店でケーキと一緒に紅茶も販売しているみたいで私はアールグレイの香りを楽しみながらショートケーキを頬張る。 「仕事の後の甘い物って最高の癒しだな。ショートケーキやっぱり美味しい。」 「ありがとう。ショートケーキと言えば拓の好きなケーキだよね?」 「え?何で知ってるの?」 「あれ?聞いてない?この前図書館で偶然会ったの拓に。すんごい久しぶりだったしなんか見違えるようになってて驚いた。」 「あ…そうだったんだ。そっか、見違えるようにか。毎日一緒に居るからそんな変化にも驚かなくなっちゃったけど。でも背は本当に伸びた。」 「そうだよね。でね、時間あるみたいだったからコーヒー飲みながらお喋りしてたらその流れでショートケーキ好きが判明した訳。拓がさ今でも家のケーキ食べてくれてるなんてなんか嬉しくなっちゃってさ。ふふ。」 一花は顔を緩ませ楽しそうに拓の話をする。 そんな一花をじっと見つめる。 「…。」 「それでさ話が膨らんで家の店の商品をネット販売しようとかいう事になったりで…あ、まだ実際には何も行動はしてないんだけどね。いずれそうなれば面白いなって話。その時は協力してくれるって拓も。凄く前向きにとらえてくれてたよ。」 「そうなんだ。」 「拓、頭良いし二人でやったら楽しいだろうな。」 「うん。そうだね…。」 一花が楽しそうに拓との事を話せば話す程私は孤独を感じていた。
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