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プルルルル…。
カタカタと朝からずっとデータ入力に追われパソコンと睨めっこをしているとデスクの電話が鳴った。
今日は電話も特に多くフロア-の雰囲気は何時もよりぴりついていた。
「はい。ライトベール化粧品です。はい…あ、お世話になっております。田村でございますね。少々お待ち下さいませ。」
うちの会社の化粧品を納品させて頂いているサロンのオーナー様から田村さん宛に電話が入った。
保留を押すと私と同じくパソコンに夢中な田村さんに真正面から声を掛ける。
「田村さん。オーナーの棚山様から三番にお電話です。」
「は~い。ありがとう。」
ふぅ…と数秒間画面から目を離し天井を見上げ手でグリグリと目の周りを何回かマッサージするとすっきりとした顔を取り戻し受話器を手に取った。
「お待たせ致しました。田村です。いつもお世話になっております。はい…先日送らせて頂いた化粧品ですか?…それは大変申し訳ございません。至急送らせて頂きますので少しお待ち下さい。誠に失礼致しました。」
田村さんは電話の向こう側の顔の見えない相手に対して受話器を当てながら何回も頭を下げていた。
棚山様と言えば私がこの間田村さんから頼まれて書類と一緒に化粧品を送る手配をした方だった。
受話器を置いた田村さんが席から私を覗き込んできた。
「あのさ高井さん。実はこの間棚山様に送ってもらった化粧品なんだけど覚えてる?」
「はい覚えてます。新商品でナチュラルベールシリーズのローションと乳液、それからナイトクリームですよね?」
それを耳にした田村さんは暫く言葉を失っていた。
「…。」
「…田村さん?」
「あ…いや、棚山様に送った商品が間違ってたみたいでさ。本当は旧ナチュラルベールシリーズが欲しかったみたいなんだよね。」
「そうだったんですか!?すっ、すみませんっ。今すぐ私手配し直しますっ!」
「俺が頼んだ仕事なのになんかごめんね。」
「そうじゃ無いです。これは私のミスですから。」
あぁっ、何やってるの私は。
あの日は拓の事と神谷さんで頭がパンク寸前で仕事に集中すれば数分後にはまた二人の顔が何度も過る一日だった。
そんな状態で仕事に取り組めばミスをするのは当然だと自分を叱咤する。
「高井さん。もし頼めるんであれば今から直接届けに行けたりする?忙しい?」
「はい、大丈夫です。行って来ます。」
まだ今日中にやらなければならない作業が沢山あるけれどそんな事言っている場合ではない。
直ぐさま立ち上がりフロア-を出る。
横で神谷さんが私の方を向いて何か言いたげに見えたけれど話をしている余裕が無かった。
私は倉庫へ走り在庫の化粧品をしっかりと確認して大きめの紙袋に詰め足早に会社を出た。
駅迄の道中私は自分の頭を拳で何度も何度もポコポコと叩きこの現状の深刻さを身をもって感じながら歩を進めていた。
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