episode 4

11/17

246人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
二人で作業を始めて一時間程で手元の書類は全て入力が終わった。 神谷さんが半分手伝ってくれたからこれ位の時間で終わったけれどもし一人で抱えていたら終電確定だったな。 こんなに甘えてしまって良いのかと内心やっぱり申し訳ない気持ちで一杯だった。 さっき遅めの昼ご飯を食べたけれど頭を沢山使ったせいか既にお腹はペコペコで神谷さんと相談して近くに最近オープンしたばかりのパエリア専門店でテイクアウトをする事にした。 フットワークの軽い神谷さんが買い出しに行って来てくれて私達二人だけのフロア-に魚介やお肉の入り交じった香りが広がる。 窓際にあるフリースペースの小さなテーブルに向き合って座り神谷さんはジャケットを脱いで腕まくりをするとスプーンで豪快にすくって口の中へ放り込む。 その食べっぷりに私も食欲が更に増して一気に口へ運ぶ。 「美味いなっ!」 「美味しい~!」 張りのある声が重なった。 そんなシンプルな言葉が直ぐに出てしまうのは本当に美味しい物を食べた時だ。 そう言えばこうして神谷さんと向き合いながら食事をするのはあの日以来だった。 けれどやはりまだ少し緊張してしまう。 神谷さんのはだけた胸元が近いせいかもしれない。 それからというものの手が止まる事などなくお互い黙々と食べ進めるとあっという間に容器は空になった。 「神谷さん足りましたか?」 「腹五分ってとこ。」 「ですよね?男性には物足りない量でしたよね…あっ、ちょっと待ってて下さい。」 私はデスクにある鞄を手にし神谷さんに先程コンビニで買って来た手の付けられていないおにぎりをビニール袋から取り出して渡した。 「はいこれどうぞ。余分に買った分があったので良かったら食べて下さい。」 「良いの?ありがとう。頂くね。」 手伝ってくれた神谷さんにこれ位じゃ足らないけれど喜んでくれてるみたいで良かった。 「あれ?何だこれ。パウダーみたいなのついてる。」 おにぎりの包みを開けようとしている神谷さんの手に肌色の粉の様な物がついている。 「まさか…あ~っ、やっぱり。すみませんっ。ファンデーションのパウダーの蓋が開いてました。」 「あ、そういう事ね。大丈夫大丈夫。謎が解けた。」 「すみません。うわっ、鞄の中も大変な事になってる。」 鞄の中身を全てテーブルに並べティッシュを使って内側を綺麗に拭き取った。 とっくにおにぎりを完食し私がそうしている間神谷さんは頬杖をつきながらその様子を微笑ましく見ていた。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

246人が本棚に入れています
本棚に追加