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鞄も元通り綺麗になりテーブルにある物を一つ一つ入れ直していくと次に手にしようとしたスマホが鳴った。
ディスプレイが上を向いた状態で置かれその画面には…拓哉。
珍しく拓からの着信。
スマホの真上で宙に浮いた手がピタリと止まる。
その刹那、小刻みに奮える動揺した手を神谷さんの視線は見逃さなかった。
拓とのあの夜の出来事を神谷さんに話した訳でもないのに神谷さんにそこで今の私を見られているだけで拓と私の全てを知られてしまったみたいに一人なんだかとても気まずい気持ちになる。
私は意を決してスマホに手を近付ける。
「出ないで…。」
細くて長い神谷さんの手が私の上に重なる。
カアッと顔が熱くなる。
「っつ!」
神谷さんの重なった手に力が入り小さなテーブルは程良い距離感など無く神谷さんに私は直ぐに捕まった。
スマホに伸ばした左手は神谷さんの右手に捕まり右のうなじは左手が添えられ私をそちらに引き寄せたかと思うと顔を斜めにし、下からすくい上げるようにして私の唇を奪った。
神谷さんの口はまるで私の顔を丸ごと食べてしまえる位大きくて当然重なった唇はすっぽりと神谷さんの中に収まってしまう。
私のうなじを押さえる神谷さんの大きな手が私をなかなか離してはくれず私は息をするのもままならない位に神谷さんの口で溺れる。
空いていた少しの隙間を見つけするりと舌が入って来た。
体がビクッとして唯一空いている右手で神谷さんの深く開けた胸を押し返す。
「っつ…はぁ…。」
「ごめん…焦ったわ。」
神谷さんは私を離し頭をクシャッとかいた。
すると私の表情を覗いながら眉尻を下げて。
「大人の余裕ゼロだな。」
そう言って私の頭を優しく撫でた。
そしてテーブルにパエリアの空の容器がそのままになっているのをビニール袋に集めて神谷さんは給湯室のごみ箱へ捨てに席を立った。
私は神谷さんと重なった感触が残る唇にそっと指先で触れてみる。
…。
拓にされた時ってこんな感じだったかな…。
窓から見える幾つもの光をぼんやりと見つめながらふとそんな風に思う私。
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