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私は目を背けたけれど拓のそのクルクルと指先で遊ばれているネクタイが勘に触り少し強めの口調で話してしまう。
「…っち、違うけど。けどこの前家に来てた可愛らしい彼女が居るのにって思っただけ。確かに一花は綺麗だけど彼女の前で今みたいに一花の事褒めたりしたら駄目だよ。」
「何で?」
「何でって…可哀想だからだよ。」
「ふっ。可哀想。」
「笑ってる場合じゃないから。」
「どの口が誰を可哀想とか言ってんだよ美羽はっ。」
拓の声が大きくなる。
「そっ、そんな怒らなくても。女の子はね、男の子よりも嫉妬深いって話してるの。」
「男だって変わんねぇよ。美羽はさ、本当男の事何も知らない。まじイラつくそういうとこっ…。」
シャッと叩きつけるみたいに乱暴に首に掛かっていたネクタイを取ったかと思うと端と端を両手で掴んで私の頭をくぐらせた。
そして首の後ろをネクタイでそちらにグッと引き寄せ拓は私に悲しい目を向ける。
「可哀想なのは俺の方だ。」
そのまま拓は私の口を自分の口で塞いだ。
肩に掛けていた鞄がスルリと腕の方へ落ちて行くのも止められない程に拓の熱に麻痺していく。
僅かな隙間なども許さないと言われているみたいな力強い濃厚な口。
舌と舌でその存在を確かめ合う様に何度も絡み合う。
苦しくても離してやらないと無言の口付けを続ける。
ボオッとする頭でどうして拓だけは素直に受け入れてしまうのか…何故神谷さんの時は一度離してしまったのかとそんな事を考える。
ドサッと床に鞄が落ちて神谷さんを押し返した私の両手は抵抗する事なく何もせずにここで持て余している。
「っはぁ…。」
長い束縛から拓がやっと口を離した。
けれど次の瞬間拓が片足を私の足の間に挟む様にして入れてくる。
そしてサラリと指で耳元の髪の毛をすくい自分の鼻先にあてがう。
「何…今日は髪まで下ろしてどうしたの?こんなシャンプーの良い香り漂わせて神谷さんの気でも惹こうって魂胆だ?へ~。美羽もやるねぇ。」
「やだっ…足どかして。お願い拓。」
私は絞り出した小さな声で拓に言った。
「…良いよ。どかしてあげるから俺のお願いも聞いて美羽。」
「お願いって…?」
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