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episode 5
休日を利用して私は朝からずっと不動産屋を何件も梯子していた。
まだ目標額にはとどいていないけれど今から少しずつ動いて直ぐに引っ越せる様にめぼしい物件を見つけておこうと思ったから。
急ぐ理由はやはり拓とこれ以上は同じ屋根の下であんな事をもう繰り返さない様にする為であと一つは私を見つめ直す為でもあった。
一番最初に家を出ると話した時と今では状況が大きく変わり理由も違うものになりそうだけれどでもその中で私の自立をしたいという信念だけは消えてはいない。
私はあの日お父さんの娘として引き取られ拓の姉としてこの長い年月を送って来た。
何時も寛大で優しいお父さんに同い年の弟の拓、そして三人の家族は私にとって命と同じ位に大切な宝物。
その家族はずっとずっと何があっても家族と思えるものでなくてはならないと思う。
血は繋がっていなくても私が…拓が…少しでも間違ってしまったら家族が家族で無くなってしまう様で私はとても怖い。
全てを失う悲しみや怖さを誰よりも知っていると思うから。
もう二度と失いたくない。
私は家族が家族を保てるように守りたい。
本当に大切な家族だから。
とりあえず幾つか目に付いた不動産を見て回り沢山資料をもらった。
一つの所に絞らずに違う不動産屋を沢山尋ねた方がそのお店の扱っている建物が違うため選ぶ幅が広がる。
三件目の不動産屋で今すぐ内見が出来る物件があるとの事だったので私はお店の人の車に乗り込み現地迄向かった。
希望を出した会社から往復一時間以内の条件に当てはまる場所で駅からも途方八分。
そしてバスも通る為雨の日は助かってしまう。
人気エリアの為割と直ぐに申し込みが入ってしまうかもしれないと言われたけれどでももし私が間に合った時にどんな部屋だったか思い出せる様にとお願いしたのだ。
内見は人生初めての体験でとてもワクワクしていた。
お店の人がスーツのポケットからカチャカチャッと輪っかのついた知恵の輪みたいな鍵を取り出して鍵穴に差し込んだ。
どうぞと促されて玄関に入ると真正面に大きな窓が見えて明るい日の光が部屋を照らしていた。
今の時間はもうすぐお昼で南向きの部屋だと分かった。
クローゼットが一つと小さなキッチンがありガス口が二つ付いているタイプで嬉しい。
ワンルームだけれど一人で暮らすには丁度良い広さで気に入る迄に時間は掛からなかった。
「是非お客様が入って頂ける事を願って。」
そんな風に言ってくれたら何だか他の誰かに譲るのを躊躇ってしまう。
お風呂もトイレも問題なく見終わって私達は駐車場に戻ろうと玄関を出ると誰かに呼び止められた。
「あれ?高井さん?」
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