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一花ちゃんが店の二階の自分の部屋に行こうと言ったので私達は手にケーキを持ちながら階段を登る。
部屋に入るとまず最初にベッドが目についた。
薄ピンク色でレース柄の可愛いカバーが枕と掛け布団のセットであった。
カーテンや絨毯迄もがピンクや黄色等の淡い色づかいで一花ちゃんの部屋はお姫様みたいな部屋だった。
私はうっとり見とれていると一花ちゃんが声を掛けてきた。
「美羽ちゃん?なんかびっくりしたでしょ?これね…実はお母さんの趣味でさ。」
「そうなの?羨ましいな。」
「え?羨ましいなんて初めて言われた。小六にもなってこんな趣味してるなんてって思わなかったの?」
「全然…寧ろ憧れちゃってた。」
一花ちゃんは戸惑いの表情を浮かべたが次の瞬間万遍の笑みに変わった。
トントン。
「入るわね。紅茶持って来たわよ。」
まだ仕事中の一花ちゃんのお母さんは白いコックさんみたいな帽子と赤いエプロンをつけて入って来た。
さっきはショーケース越しで分からなかったけれど腰に巻かれたミニのエプロンがケーキ屋さんぽくてとても可愛いかった。
「美羽ちゃんゆっくりしていってね。」
「はい。ありがとう御座います。」
バタン。
ティーカップにそれからティーポット、綺麗なケーキが二つテーブルに置かれどこからかバイオリンの演奏が聞こえてくる様な気がして…。
私は本物のお姫様だと思わずにはいられなかった。
「ねぇ、一花ちゃん。」
「うん?」
「一花ちゃんのお母さん優しくて良いお母さんだね。」
「う~ん…。皆そう言ってくれるんだけど私はもう少し放っておいて欲しいんだよね。」
「どうして?」
「優しいお母さんでいてくれるのは嬉しい事なんだけど。普段は忙しくて私に構えないからそれを引け目に感じているみたいでこうやって部屋のインテリアとか私が喜ぶと思ってやってくるんだよね。まぁ、お母さんの気持ちも分かるから断る訳にもいかなくて。でも私は自分の趣味じゃ無いもんだから内心はちょっと複雑…あはは。」
「そう…なんだ。」
「うん。買い物に行ったら行ったでフリフリの洋服買ってくるし。私はどちらかと言えばスポーティな感じの服が好きだし。何時までこのやり取りが続くのかな~なんて思ったりするよ。」
「お母さん。一花ちゃんが大好きっていう事が分かる。」
「ま、まあね。」
少し照れ臭そうにしながらケーキを頬張る一花ちゃんを目の当たりにして私の心はチクンと痛んだ。
ケーキの甘さで誤魔化そうと一口、また一口と口に運ぶけれど今度は上手く飲み込めなくて余計に苦しくなった。
ゴホッ。
「美羽ちゃん大丈夫?!」
一花ちゃんがティッシュを差し出す。
「うんっ、大丈夫…だよ。」
落ち着きを取り戻しふと窓を見るとピンク色のレースのカーテンから夕焼け空が透けて見えた。
これを食べたら今日はもう帰ろう…。
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