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こんな場所で知り合いでも居たのかと記憶を辿りながらゆっくり振り返ると神谷さんが立っていた。
神谷さんはこの間の私服の感じよりも更にラフな格好で手にはコンビニの物らしきビニール袋を下げ頭は何時ものワックスの艶感など無く少し目に掛かる自然なスタイルだった。
髪型のせいだろうか神谷さんが私と同じ位に見えた。
「お知り合いですか?」
「あ、はい。会社の先輩なんです。」
「そうでしたか。偶然でしたね。」
「はい。本当に。」
びっくりする私達に神谷さんも加わる。
「こんな所で何してるの?」
「物件探しで回っていてここが良さそうだったんで見に来たんです。神谷さんは…え?もしかしてそのラフな感じはここに住んでるとか。」
「三階の305号室。つまりこの階の一番端っこに。」
「そうなんじゃないかなって途中から思ってましたけど本当に住んでたなんてやっぱりびっくり!」
「いやいやっ、俺もびっくりだから。え、高井さんもう引っ越しするんだ。そっか。よろしくね。」
「正式にはまだなんで…あの、また会社で詳しく話しますね。」
まさかこのアパートに神谷さんが住んでいるなんて何だか出来すぎている様な気がしたけれどでもここは人気エリアだし会社の誰かしらは住んでいてもおかしくは無かった。
初めての一人暮らし。
心細くない訳では無い。
男性の一人とは少し違うから。
だけどもしこの物件に決まれば直ぐ側に神谷さんが居てくれる。
そう思うだけでなんだか安心出来た。
お店の車に乗り込み帰りは近くの駅迄送ってくれるとの事になったので私はお言葉に甘えてお願いした。
「本日はありがとうございました。あの物件に限らず条件に反った物件をまた幾つか探してピックアップしておきますね。ではまたご連絡お待ちしています。」
車から降りて頭を下げて見送ってくれた。
車の中で今にも鳴りそうだったお腹がぐぅと音を立てた。
朝からの物件探しで動き回り少しお腹の空いた私は帰りに一花のケーキ屋を訪れる事にした。
今日は何のケーキを食べようかと頭で楽しみに考えながらケーキ屋へ向かっていた。
今日は休日だからもしかしたら一花が帰っているかもしれないな…拓に会いに。
少し胸がザワザワっとした。
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