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キュッ。
上下白の作業着に小さなベージュのエプロンを腰に巻き付けおじさんと同じ白い帽子を被る。
パティシエさんが良く被っている背の低いふにゃっとした可愛い帽子だ。
縁の横には小さな赤い刺繍でMiwaと施されている。
おじさんが気を利かせて私の為に用意してくれたらしい。
こんな風に一式上から下まで揃えてもらうと何だか作れないケーキも作れそうな気分になってくるものなんだと自分が可笑しくなった。
頼まれている仕事内容は主にレジや予約の受け付け。
お客様が居ない時は裏でちょっとした飾り付けや洗い物そしてお掃除等を任された。
特に難しい事は無くおじさんが優しいのでとても働きやすかった。
そして当日売れ残ったケーキを持って帰らせてくれるのが一番の楽しみだった。
「美羽ちゃん似合うよその格好。やる気があれば教えるよ。」
おじさんがそんな事を言ってきた。
「ケーキ大好きなんですけど多分私調子乗って沢山作って全部食べちゃう気がするんですよね…後々大変な事になりそうで。はは。」
「女子には死活問題に匹敵するな。それはまずいな。」
「はい…洋服入るサイズが無くなりそう。」
そんな冗談を言い合っているとお客様が来店された。
「いらぁっ、しゃいませ。」
緊張の第一声は声が上ずってしまった。
チラリとおじさんを見ると私に親指を立ててグッとやって見せた。
「あのすみません。誕生日ケーキの予約をお願いしたいのですが…。」
「はい。ご予約ですね。かしこまりました。ではまずケーキはどうなさいますか?」
私はレジ横にある一冊のファイルを取り出して開いて見せた。
そこには沢山の味や形のサンプル写真が挟まれておりお客様は目を輝かせて見入っていた。
するとチョコレートクリームの上にくまさんと切り株の飾りの乗ったケーキを指さしながらこちらを向いた。
「このケーキにします。お誕生日のプレートも付けて下さい。」
「分かりました。それではこちらにお名前とお電話番号とそれからプレートに書くお名前もお願いします。」
このケーキのチョイスからするときっとお誕生日の主役は子供でまだ二、三才か幼稚園の年少さん位だろうなと予想したりしながら記入が終わるのを待った。
少しして書き終わり漏れがないかざっと目を通して記入カードを受け取りお客様は帰って行った。
今一度確認をするとなんと受取日がお父さんの誕生日と同じだった。
そうだもう直ぐお父さんのお誕生日だという事を思い出した。
お父さんには毎年決まって何時もよりもちょびっとだけ豪華な手料理を振る舞っていた。
今年も勿論手料理とあとはプレゼント。
何をあげようかな…。
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