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「悪ぃ。待った?」
地元の駅から少し歩いた場所にファミレスがあり俺達は合流した。
この前久しぶりの再会で雰囲気の変わった橋本は気のせいだろうか周りに居るお客さんからの目線を集めている様に感じた。
俺は席に座るなりメニューを開きとりあえずドリンクバーを頼んだ。
橋本は既にコーヒーを飲み始めている。
俺も座って間もなくコーヒーを取りに席を立ちお絞りも手にしながら席に戻った。
そして手を拭きながら口を開く。
「それで、この前の話気になってるの?」
「うん。そうなんだ。実はさもう美羽から聞いてるかもしれないんだけどお母さんぎっくり腰やっちゃってさ。今寝てるんだよね。」
「マジかよ。大変だなお店もあるのに。」
「動くとやっぱり痛いみたいでさ治るまでは安静にしてた方が良いみたい。もう家の両親歳なんだなぁって実感したよ。お父さんも仕事終わると早く寝ちゃうし。」
「まぁな。その分俺達も歳を重ねてるって事なんだけどな。」
「そうだね。でね、そんなお母さんの状況を目の前で見て家のケーキ屋はこの先何時どうなってもおかしくないなって思い始めたの。今回はお母さんだったけどお父さんだったらケーキ作れる人が居ないなって。一応お母さんも作れるけどメインはお父さんだからスポンジ一つ焼くにしても微妙に味や堅さが違ってきてしまうみたいでさ。そこで拓に言われたネット販売もやってみる価値はあるかもしれないって思ったんだよね。」
「いやぁ、俺の一言がこんな風に繋がっていくなんて思いもしなかったな。でも橋本ん家の焼き菓子も本当上手いから自信を持って売り出せるけどな。ただ…」
「ただ?」
「ご両親にはこの件話したのか?」
「え?まだ話して無いよ。だけどきっとオッケーしてくれると思う。前にもチラッとそんな話した事あったし。」
俺はコーヒーを一口ゴクリと流し込み橋本の目をしっかりと見つめた。
前にも話をしていたから大丈夫と橋本は言っているがそれなら安心だとご両親にさも当たり前の様に俺達がネット販売を始めますとは言えない。
まず段階を踏まないと。
橋本との待ち合わせ前に思っていた俺の考えを落ち着いた声で話した。
─────。
「拓…そんな所迄頭が回るんだね。やっぱり凄いや…っていうかこれは人として拓が凄いんだ。優しいとか思いやりがあるとかそういう事なんだよね。こんなに私の両親の事考えてくれてるなんて思わなかった。私娘なのに二人の気持ちすっ飛ばしてた。私以上に思ってくれて…どうもありがとう。」
橋本の顔がやんわりと解れていく。
俺の考えや思いが橋本にどうやら通じた様だった。
「…という事で、先ずはそこからだなスタートは。両親の本音の部分をきちんと聞いてから本格的に進めよう。」
「うん、分かった。あ~なんだか気付けて良かったな。このまま私達だけの意見で突っ走っていたらと思うとちょっとゾッとしてきた。ははは。」
「だな。話し合いってたまには良いもんだよな。良い意味でお互いの見えてない部分を指摘し合えたりも出来るもんな。」
「親孝行出来たら良いな…なんて。」
橋本は照れながら小さな声で呟いた。
そしてコーヒーを飲み干すとドリンクバーへと席を立った。
可愛いとても良い女の子だと素直に思えた。
美羽の友達で居てくれる事に納得が出来る程に。
美羽も橋本も中身は心根の優しい女の子なんだ。
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