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約束の日曜日が来た。
私達はデパートの入り口に十一時に待ち合わせをしていた。
家を出るのが遅くなってしまった私は駅から走ったせいで着いた頃には髪がボサボサで硝子の扉に映った自分に驚いた。
硝子に映る自分を見ながら手ぐしでササッと整えていると横からスッと神谷さんがカットインして来た。
「わっ、おはようございます。」
「…うん、やっぱり髪下ろした方が俺は良いかな。」
ジャケット姿でズボンのポケットに手を入れ肩をすぼませた神谷さんは開口一番にそんな事を私に言いながら待ち合わせ場所にやって来た。
「いや、実は駅から走ったせいで髪が大変な事に…はは。あれ?そう言えば神谷さん今あっちから来ましたよね?駅と反対方向の。」
「あぁ、そう。車で来たから駐車場に止めて来たんだ。」
「そうだったんですね。」
それにしても神谷さんは今日も爽やかだな。
拓もそうだけど背の高い男性がジャケットを着ると本当に様になるんだよな。
「ん?どうかした?」
「あっ、いえ。」
見とれていた私ははっと我に返る。
「じゃあ行きましょうか。」
うんと頷く神谷さんと私は中に入りエレベーターの壁に掛かっているフロアーガイドを見ながら上のボタンを押した。
メンズ売り場にとりあえず行って神谷さんの意見も聞きながら選んで行こうという事になった。
エレベーターが一階に着くと私達の他に後ろで乗るのを待っていた他のお客さん達が一斉に乗り込んでくる。
日曜日のデパートはやはり人が多く私と神谷さんは端に追いやられてしまった。
手が動かせない程の混み具合いにバランスを崩し神谷さんの胸に顔が当たりそうになるとフワッと香水のいい匂いがした。
メンズの香水でもつけているのだろうか。
そもそも男性が香水をつけている事自体が魅力的で神谷さんのそんな魅力に恥ずかしさを隠しきれないでいた。
耳まで熱くなっている私に神谷さんが気が付いた。
「耳真っ赤だよ…熱いよねこの中。」
ははっ…と苦笑いして神谷さんは私の気持ちに気付いてはいない様だった。
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