episode 5

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メンズフロアーに到着する頃にはエレベーターの中も私達を残して数人になっていた。 私と神谷さんの近かった距離も程良い位に間が空いて耳の火照りが引いていくのを感じていた。 エレベーターからおりると直ぐに神谷さんが口を開いた。 「お父さんてまだ五十代?」 「えっと…二十七歳の時に拓が産まれたから四十八歳ですね。」 「そっか、まだ若いんだな。俺の親父は歳いってからの子だからもう六十だよ。それならプレゼントもあんまり落ち着いた感じにこだわらなくても少しだけヤングな要素のある物でも問題無いかもな…あっ、あそこの店なんか良さそうだよ。入ってみる?」 「はい。」 神谷さんに促されて入ったお店にはダークな色味の洋服や靴、それから雑貨等も揃えられており一見年齢層がかなり上の方向けのお店なのかと思えるのだが服を見てみると今時のデザインの物もちらほら置いてあったりでお父さんの年代に合いそうな気がした。 洋服は自分の趣味に合わないとタンスのこやしになりそうで気が進まずデザインの素敵な物は幾つか飾ってあったが候補から外してしまった。 店内を端から見て回っているとショーケースに入れられたアクセサリーに目が留まった。 ライトに照らされてリングやバングルが光を放っている中に黒のスマホケースが茶色と色違いで置かれていた。 見るからに素材感はレザー。 値段から予想して多分フェイクレザーだ。 シンプルであるものの周りのステッチが赤や紫、ブルーとさり気ない遊び心を表現している。 私は気持ちが動き神谷さんを呼んだ。 「神谷さんこれなんかどう思います?」 ショーケースの中を指差すと神谷さんは顔をパァッと明るくした。 「うわっ、すんごく良いよ!シンプルだけどこのステッチがアクセントになるから大人しすぎずお洒落なデザインだね。俺も欲しくなって来た。サイズ合えば良いんだけどお父さんのスマホのタイプ分かる?」 そうだ、私のスマホと同じタイプの持ってたんだったなお父さん。 私のスマホがこのサイズに合えばこれをあげられる。 「お父さんのスマホ実は私のタイプと同じなんで試してみて合えばこれ買えます。」 「良し分かった。すみません…。」 神谷さんが店員さんを呼んでくれて早速サイズ合わせをしてみる。 「ぴったりだ。なんか嬉しい。」 「うん。やっぱり俺も色違い買おっかな。」 サイズも合うという事が分かり購入をと思ったがまだ他にもお店があるので一通り見てみてからにしようという事になった。 そしてまたフロアーを少し歩くと時計コーナーが見えてきた。 フロアーガイドにそう言えばメンズファッション、それから時計と書いてあったな。 沢山並べられたショーケースに目を落とすと高級ブランドから馴染みのある者まで幅広くきちんと整頓されて飾られていた。 その中にはお父さんに似合いそうな時計が沢山あって目移りしてしまったが時計となるとお値段もそれなりに張る訳で小さな溜息が出てしまった。 引っ越し費用も頭に入れつつのプレゼント選びはなかなか難しい。 「お探しでしたらお手伝いいたします。」 頭でそんな事を考えていると男性の店員さんに声を掛けられた。
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