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一花ちゃんの家を出ると丁度夕方のチャイムがなり始めていた。
小学校から流れてくる十七時を知らせるそのチャイム。
…明日も私…学校行けるかな…。
トボトボと歩きながら小さく呟いた。
右手にぶら下げた紙袋に目線を落としながら一花ちゃんのお母さんを思い出す。
「一花ちゃん。これシュークリームなんだけどお家帰って良かったら食べてね。今日は一花と遊んでくれてありがとう。また来てね。」
最後迄笑顔の素敵なお母さんだった。
私のお母さんも良く笑う人だったっけ…。
「美羽?」
後ろで誰かに呼ばれ振り向くと拓が立っていた。
「拓…。何処か行ってたの?」
「塾の帰り。美羽は?」
「一花ちゃんの家に遊びに行ってたんだ。」
「一花って…あぁ、あのケーキ屋の。」
「そう。あぁ、そうだ。これ一花ちゃんのお母さんがお土産にシュークリームくれたから後でお父さんと三人で食べよう。」
「うん。」
「それでね、一花ちゃん家のケーキ屋さんてね…」
私は一花ちゃん家のケーキが美味しかったとか、一花ちゃんの部屋がお姫様みたいに可愛いかった事等を横に並んで歩く拓に一方的に話していた。
拓はそんな夢中になって話す私にただうんと相槌を打ちながら耳を傾けてくれていた。
私は拓が話しを…私の面白くもない話を黙って聞いてくれるものだからつい長々と。
「…でね、一花ちゃんの部屋は全部お母さんの趣味なんだって。一花ちゃんがね、喜ぶと思ってね、ピンク色とかレースとかにしてね…それでね…」
チクン…。
また胸が痛くなって話す声も苦しくなって。
気が付いた頃には両手で顔を覆っていた。
覆っている手から流れ伝う物を感じた時、自分は泣いているんだと感じた。
そして頭の中は私のお母さんで一杯になっていた。
会いたい…お母さんに。
泣きべその声で呟く。
っ?!
「…帰ろう…美羽。」
トクトクトク…頬で感じる温かい音。
頭一つ身長の高い拓の胸に私は包まれていた。
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