246人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
車が走り出してからは私とこの間偶然会った自宅の話になっていた。
あの日私が不動産屋の人と内見した神谷さんと同じ階の三階の部屋には毎週の様に内見しに訪れる人が後を絶たないそうで契約してしまうのは時間の問題かもしれないと言われた。
神谷さんもそんな近況を教えてくれるし私は私で不動産屋を幾つか回ってまだ内見出来ていない場所もあったりするので地道に探して行こうと思った。
でも話をしている最中私は紙袋に目線を落としたままで神谷さんに耳を傾けていた。
そんな私に気付いた神谷さん。
「…そこまで深刻に考えちゃうとこも高井さんっぽいね。俺の気まぐれが返って悩ませちゃったかなごめん…うん、一回引き取ろうかなそれ。」
「いえ…大丈夫です。」
頭の中であれこれ考えていたけれど神谷さんは私が思っているよりもこのプレゼントに対して執着は無いのだと今の言葉で感じた。
だからこれを持ち帰る事に決めた。
それが神谷さんにとっても良いのだと思えた。
この時計をするかしないかはまた別としても。
それから更に車を走らせ夕方日が落ちる前には地元の駅付近に着いていた。
私は駅迄で大丈夫と言ったけれど家迄送るとの事で神谷さんのご好意に甘えてしまった。
買い物に付き合ってもらってその上プレゼント迄頂いて最後は家迄車で送り届けてくれるなんて至れり尽くせりで困惑してしまっていた。
「あっ、ねぇ。」
ふと神谷さんが何かを思い出した様に。
「高井さんのバイトしてるケーキ屋さん見てみたいな。近く?」
「近くですけど今日は残念ながら定休日なんです。ケーキ買えませんよ。」
「ちょっと見に行っても良い?」
「え?あ、はい。良いですけど…買えませんよ?ケーキ。」
「良いの良いの。道どっちかな?」
ケーキが買えないと落胆する素振りも無くその横顔からは楽しみでしょうがないと言わんばかりの神谷さん。
私は半分気が進まないまま道案内を始めた。
だけどお店が駅から近い為道案内は直ぐに終了した。
そしてお店の前で車を止める。
窓を開けて確認するとシャッターには定休日の看板がぶら下がっている。
「…ご覧の通り定休日なんですが。」
それでも神谷さんはニコニコしながら店全体を車から見渡す。
「へ~!ここでバイトしてるんだね!外壁も可愛いしケーキ屋さんって感じする。勿論味は絶品なんでしょ?」
「はい!それはもうここら辺じゃ一番だと思います。」
「本当に!?今度買いに来ても良い?食べたい。」
「ここ迄ですか!?」
「うん…俺仕事以外は車だしさ。問題ないよ。」
「そ、それは有り難いです。きっとおじさんも喜ぶと思いま、、」
「あれ?美羽?」
最初のコメントを投稿しよう!