episode 5

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後日───────。 仕事終わりにロッカールームで身支度をしていると鞄の中のスマホが振動しているのに気が付き手に取り電話に出る。 それは一花からの着信だった。 普段は私が社会人の為気をつかって大概はメッセージを送ってくれるのだが今日は珍しく電話だった。 「もしもし一花?」 ザワザワと人の声が聞こえてくる。   「あっ、美羽まだ職場だよね?ごめんね。」 ちょっと焦っている様子だった。   「今終わったとこだから大丈夫だよ。どうしたの?」 「あのさ、今日拓と外で会う約束してるんだけど待ち合わせ時間になっても来なくて。もう三十分近くも過ぎてるから心配になって美羽に連絡入れさせてもらったの。もしかしたら美羽拓から何か連絡とかあったかなって思って。」 「ちょっと待ってて今スマホ確認してみるから。」 ────。 「うん…メッセージも着信も来てない。」 「そっか。分かった。とりあえずもう少し待ってみる。美羽ありがとう…あっ!美羽さ…。」 「何?」 「この間車に居たあの大人な爽やかな男性ってもしかして彼氏?」 「…っ違う、会社の先輩。」 「先輩と車でどっか行ってたの?休日に?しかも後輩のバイト先見たいって?」 一花はなかなか鋭い。 「そ、そうなの。買い物に付き合ってもらった帰りにそういう話になってさ。」 「ふ~ん。ま、また今度ゆっくり話そうね…あっ、拓来た!やっと来たな。後でコーヒー御馳走されよう。はは。拓~っ!…あっ、じゃあ美羽またね。あのイケメンの神谷さんによろしくね~。」   そう言って電話を切った。 スマホを耳から離し通話終了ボタンを力ない手でポンと押す。 拓を見つけた瞬間の嬉しそうな一花の張りのある声が頭に残っていた。 一花は今日も拓と二人で会うんだ…。 一花が拓に惹かれている事はこの間の話で感じたしあれから時間も経ちもう二人は何回も会ったりしているのだろう。 拓だって一花の事は気に入っている口振りで嫌いどころか寧ろ好意的に思っているはず。 拓は彼女と別れて私の知らない所で既に二人は付き合っていてもおかしくはない。 私が知らないだけで拓はで一花の体に触れてしまっているのかもしれない。 そんな想像をしただけで嫉妬心が私を襲いロッカー扉の内側に掛かる鏡の中の自分の顔に驚いた。 何て顔してるの…怖い…。 私は慌ててバタンと扉を閉める。
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