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橋本を家迄送り届け俺も自宅マンションの前迄辿り着き郵便受けを見に入り口の奥へ回った。
郵便受けを覗くと数枚のチラシの上に白い紙袋で分厚い物が入っていた。
この前亜由美との別れ話の際漫画をポストに入れておくと言われたのを思い出した。
ずっしりと重い紙袋を手に取りエレベーターに乗った。
しかしあの泣き虫でわがままな亜由美が最後はあんなにあっさりと引いてくれるなんて予想外だった。
俺が冷たくあしらうと必ずグチグチ言いながらでもなんとか自分の思う様にしようとあがいていたのに。
こんなにコロリと態度が変わったのはあれか。
好きな男でも出来たのかもしれないな…。
で、俺から別れようと言われるのを待っていた…うん、そんなとこだな。
そう考えればしっくりくる。
俺はそう思う事にして亜由美を過去の思い出に閉まった。
二週間後────。
「…後、洋ナシのタルトとショートケーキですね。はい。かしこまりました。只今箱にお入れしますので少々お待ち下さいませ。」
ん?
下から聞き覚えのある声がしてペンを持つ手が止まった。
「…お釣りでございます。どうもありがとうございました。またお待ちしております。」
やっぱりそうだ。
美羽の声…どうして橋本ん家で働いてるんだ?
俺はその日初めて橋本の家にお邪魔していた。
ネット販売に必要な物をお互い書き出していた最中の事だった。
俺達が入って来た時は確かおじさんが店番をしていて美羽の姿は無かったはず。
「橋本。今下から女性の声が聞こえたんだけどあれって美羽?」
橋本は目を丸くして俺に。
「えぇ?拓聞いてないの?家のお母さんの体調が戻る迄バイトする事になったんだよ。」
「あ…あぁそうなのか。」
「うん。拓最近美羽と話して無いの?そう言えば拓ってさあんまり美羽の話自分からしないよね。何かあったの?」
「いや何も。てか美羽は俺の姉な訳だし弟の俺がこの歳にもなって姉の話を嬉しそうにペラペラ喋ってたら気持ち悪いだろ。」
「そんな事無い無い。たまに聞くよ。仲良し姉弟の話は。全然あり。」
ペンを人差し指と中指で挟みながら顔の前で左右に振る。
カタッ。
すると橋本は次の瞬間持っていたペンをテーブルに置いて俺をじっと見てきた。
「でも。実際の所拓と美羽は血が繋がって無い一人の男と女であるわけで…拓は可愛い美羽に特別な感情を抱いた時は無かったの?」
「…ある訳無いだろ。」
「ふ~ん。そっかぁ。なら良いんだけど。」
側に置かれたティーカップを手にし何故だか橋本は少し嬉しそうに紅茶を口に含んだ。
「(や、良くない)」
「え?」
「(良くないのはそれじゃ無くてあっちの方。)」
小さな声で独り言をブツブツと言っている。
「ん?あっち?」
「何でも無いこっちの話し…それより拓も忙しいのに私との時間作ってもらっちゃっていつもありがとう。デートとかもあるのにさ。大丈夫?」
「言って無かった?この前別れた。」
「えっ、そうだったんだ!だから私とこうやって会えてるんだ。なる程ね。」
「俺の話はこの位にしてあと何が必要かまとめちゃおうぜ。」
「うんっ!!ふふ。」
俺は嘘をついた。
人から初めてそんな質問をされて内心かなり動揺してしまった。
一番踏み込んで来て欲しくない俺の領域に橋本はまるで俺を見透かすかの様に。
橋本の前で美羽を好きだと言ってしまいたい。
血が繋がっていないのだから何もおかしい事など無いじゃないか。
けれど。
俺の想いをもし耳にしてしまったら美羽の気持ちはどうなるんだ?
弟が姉を本気で好きだと言っても美羽の気持ちが俺に無かったらその時美羽は…俺は…。
家族としても一緒に居られなくなる。
俺は美羽を想う度に最悪の結末ばかりが頭を過り自分で作り出したしがらみにもう何年も苦しみ続けている。
誰にも相談出来ず美羽に想いも伝えられずとうとうあの夜から俺は何かが壊れたんだ──────。
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