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ガシャン。
エレベーターの扉が開く音ではっとした。
ゾロゾロと我先にと外に出て行くその人々の勢いに体が持っていかれそうになるのを拓の長い腕が私をしっかりと支えてくれていた。
背中に回された手はほぼ腰に近かった。
カァッ~。
上を見上げれば拓の顔がすぐそこに。
そして気のせいだと分かっているけれど拓に触れられている部分だけが熱い。
…。
「うっし、美羽出るぞ。」
「あっ、う、うん。」
私は赤く火照った顔を見られない様に前髪を直す振りをした。
改札をくぐり同じホームに並ぶ。
私の会社と拓の大学が同じ方向で途中拓が乗り換えの為に下車していく。
暫くすると電車がホームへ入って来て私達は乗り込む。
車内も混んでいたがお互い吊革に掴まる事が出来て横並びになった。
拓は吊革に掴まっても隣の人に伸びきらない肘が当たりそうになる程余裕がある。
そして黒のリュックを邪魔にならないように後ろから前に移動させて背中を丸める拓。
背の高い拓にはこんな窮屈な場所は私が思っているより大変なんだなと思ってしまう。
私達の乗る時間帯は朝というのもあって車内は静かで誰も話してはいなかった。
座席に座っているサラリーマン達は皆朝から寝入っている。
立っている私もあまりの静かさと心地の良い揺れに誘われて意識が遠のいていく。
カクッ。
「クスクス。美羽寝てたろ?立ち寝出来んの?」
耳元で拓が冷やかす。
「で、出来るの、私。」
「そりゃすげぇ。何かの役に立つと良いな。はは…。」
私をからかう拓は何故だか何時も優しい目をしている。
私はその眼差しが前からとても好きだった。
「○○駅~。」
「じゃあな。また夜に。連絡する。」
「分かった。行ってらっしゃい。」
拓は人混みのホームへと消えて行った。
今は私をエスコートしてくれたりしてこんなに優しい拓だけれど、高校の頃の拓はお父さんも私も頭を悩ませる位に荒れてたなんて信じられないな本当。
私はゆっくり目を閉じてみる。
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