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俺が急に手を離したのが気になったのか神谷さんは周りをチラリと見渡した。
そんな俺達の横をさっきの人達が通り過ぎる。
「なる程ね。一応そういうのは気にするんだ。ちょっと安心した。」
「貴方に安心されても…ねぇ。」
「いやさ、今時の若者は分別つかない子がいるからさ…周り気にせず迷惑掛けちゃう子とかね。」
「俺は少なくとも貴方の思ってる様な底辺の若者では無いと思いますが。」
「はぁ。なら良かった。ノーモラリストは相手にするとキツイからな…はは。」
前回会った時もそうだった。
この人と話をしてると勘に触るんだよな必ず。
俺をまた煽りたいだけなんだよなこいつ。
そんな神谷さんを俺は無視して再び家へと歩き出した。
けれど神谷さんはそれっきり何も言ってはこなかった。
『彼女にキスした───。』
その言葉で俺は自分を制御出来なくなった。
今まで俺にこんなに堂々と美羽を欲しいと宣言してきた男は一度も居なかった。
美羽が他の男に奪われると俺を脅かす存在に直面している訳だがでも、一体どうしたら美羽を引き留められるんだ?
いっその事美羽が好きと言ってしまおうか…なんて。
美羽への溢れる想いを伝えるそんな一か八かのやり方なんて出来っこない。
俺の場合は普通じゃ通らない。
…弟だから。
愛する人に一番近くて一番遠いい。
「美羽…。」
一人歩きながらそう呟いた。
ん?
後ろを振り返る。
誰も居ない…。
神谷さんが俺を追いかけてまた何か嫌みでも言いに来たのかと思っていた。
その時迄は─────。
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