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あの後拓も神谷さんも帰ってしまい私と一花はお店でお客さんも居なかったのでおじさんが出してくれた紅茶を頂いていた。
私は仕事中なのでショーケースの内側で立ちながら。
そして一花がさっきから私に神谷さんの話ばかりを聞いてくるので今度は一花に拓の話を聞いてみる事にした。
胸がザワザワとしているこの原因を少しでも取り除きたくて。
「今日はケーキでも食べながらミーティングしてたの?」
平然を装いながら。
「うん。毎回喫茶店とかだとうるさかったりするしね。あと家だったらケーキ食べ放題の飲み放題でお金かからないし。大学生には助かるんだよね。」
なんだ…そういう理由があったんだ。
「確かに。一花ん家のケーキを無料で食べさせてもらえるなんて弟の代わりに姉からお礼を言います。どうもありがとうございます。」
「あはは。良いってば…あぁ、そうだ。さっきね拓と美羽の事話しててさ。」
「私の?」
「うん。美羽と拓は姉弟として育って来た訳だと思うんだけど美羽に特別な感情を抱いたりした時はあったのって。」
「…。」
「そしたら拓、有るわけ無いって言ってた。」
「…そっ、そうだよ…だって拓はあの日から私の弟なんだから。」
「これだけ可愛い美羽だからもしかして…なんてちょっと思ったんだけど…だよね、血が繋がって無くても弟は弟だもんね。」
「そ、そうだよ、何言い出すかと思えば一花やめてよもぉ…。」
「ごめんごめん。こんな話してたら美羽の神谷さんに失礼だよね。」
「私のじゃ無いし、もぉ。」
一花とのそんな会話もそこそこに私は紅茶を飲み終えるとおじさんと明日の仕込み作業の手伝いに加わった。
ずっとずっと胸の奥底で誰にも見つからない様に大切にしていた拓への想い。
自分の中でも靄がかかって鮮明に見えた事は無かった。
けれどその靄が少し明けて分かりかけた瞬間を覚えている。
それから私は拓を只の弟として思えば思うほど苦しくて自分に嘘をついている様な気さえしていた。
そんな誰も知らないそっとしておきたい気持ちに一花が片足を踏み入れそして私を取り乱す。
一花はこんな風に私が拓を想い悩み苦しんでいるなんて知らない。
一花は何も悪くは無いんだ。
だけどいつかまたふとした時に一花がそんな話をしてくる日があるのならば私は平常心を保てる自信が…無いかもしれない。
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