episode 6

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看板を準備中にし店内の掃除をしてその日のバイトは終わった。 おじさんが売れ残ったケーキを箱に詰めて持たせてくれて私は家へと向かった。 朝から晩迄働くと流石に頭も体も疲労感で一杯になる。 こんな時程気持ちの余裕なんかも無くなって見る物聞く物全てが普段とは違ってすんなりといかない。 千鳥足で群がる団体が道を塞ぎ夜道を爆音で走行するバイク…。 ケサケサする気持ちの中にはもう一つ原因があった。 拓は私に特別な感情は無い─────。 そうよね。 当たり前よね。 弟なんだし。 一花に面と向かって断言する位だもん。 そう言う事なのよ。 でも…何で私にあんな事したのよ。 拓は私をどうしたいの? 拓の…拓のバカ。 帰ってリビングの椅子に腰掛け箱に入ったケーキをフォークも使わずに手掴みで黙々と口に運ぶ。 なんだかもうヤケ食いに近い食べっぷりで、でも心身共に疲れた私の中に箱のケーキはあっという間に姿を消していく。 水分も取らず只食べ続けたせいで最後の一口を食べきると口の中の甘ったるさに気持ちが悪くなり冷蔵庫の水を取りに立ち上がると拓がリビングに入って来た。 拓をチラリと見たけれど今は顔が見たくなくて私は拓をスルーして冷蔵庫の扉を開けペットボトルの水を勢い良く飲む。 プハァ…ん? 拓が直ぐ側で突っ立ったままで私を見ている。 私は濡れた口元を手の甲でぐっと拭いながら。 「な、何か用?」 眉をひそめ少し不機嫌な声で言う。 「水取りたいんだけど俺も。」 「あぁ、はいっ。」 冷蔵庫の前に居た私がペットボトルを取り拓に渡す。 バタンッ。 拓はまるで扉を叩くかの様に勢い良く閉めた。 目の前の私はその勢いで前髪がフワリと舞った。 ケサケサする気持ちに更に輪を掛けてカチンときた私はその不機嫌な顔で拓を見上げた。 「珍しく機嫌悪そうだな美羽。」 拓も拓で余り機嫌はよろしくない。 「そうだね。私もたまにはこんな日もあるのよ人間なんだし。」 「店に居た時は楽しそうに笑ってたじゃん。」 「あれはだって皆で楽しく会話してたしそれに、、」 「神谷さんも居た手前変な態度はとれないよなぁ~いくら何でも。」 「何なのその言い方っ。感じ悪い。拓だって最近一花と会ったりしてて楽しそうじゃない。」 「…気になるんだやっぱり。はは。」 「そうじゃ無いけど拓が神谷さんの事持ち出すからだからっ。」 「ふ~ん。それより橋本の部屋に初めてお邪魔したんだけどあれはやばいなぁ。」 「やばいって…何が。」 「美羽の部屋とは真逆でいかにも女の子って部屋だった。あんな空間に橋本と居たら俺じゃ無くても理性保つのやっとだなぁ~。」 一花のそんな話をする拓の顔はいやらしくて心底腹が立っていた。
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