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拓に密着した私の体は全てが拓で敏感になりこの火照った熱すぎる熱はきっと拓にも伝わっている。
熱い…拓が私を触るだけでこんなにも。
けどそんな私よりももっとずっと拓は熱を帯びている様に感じた。
「っん…。」
拓が私の口からようやく離れて勢いそのままに首筋に吸い付く様に唇を当てた時。
バシャッ。
その音で拓の動きが止まる。
私も我に返り下を見ると拓の持っていたペットボトルが床に落ち辺り一面水浸しになった。
「はぁ…はぁ…。」
抱き合っている二人はお互い息が乱れたまま。
「どうかしたかぁ?」
廊下からお父さんの声がした。
途端に私達は体を離し私は雑巾を取りに拓はペットボトルの容器を拾い上げると心配してリビングに入って来たお父さんに只手が滑って落としたと説明をしていた。
「家族写真?」
床を拭き終わると私と拓を呼んでお父さんはそう言った。
町内会の人で写真館を営んでいる金子さんというお父さんと仲良しの方が居て来月で店終いをする為最後にそこで撮ろうという話だった。
私がこの家に来てから誕生日や旅行に行った際に勿論写真は何枚も撮ってくれた。
けれどきちんとした三人での家族写真という物は言われてみれば一枚も撮った事は無かった。
「美羽ももう直ぐ家を出るし離れ離れになる前に皆でと思ったんだ。美羽はたまに顔を出してはくれるだろうけどお父さんは何時も美羽の顔を見ていたいしそれに誰が何処に居てもお父さんのたった一つの三人の家族でこれからもその関係を大切にしていきたいと思ってる。」
「…。」
「う…ん…そう、だね。家族写真撮ろう…ね。」
下を向き何も言わない拓を心配してお父さんが声を掛ける。
「拓?具合でも悪いのか?」
お父さんの呼びかけに反応して顔を上げた拓は覇気の無い表情で大丈夫と言って写真を撮る事を了承した。
お父さんがそういう気持ちで居る事などとっくの昔から分かっていた。
記念日を忘れずに必ず祝ってくれて、私や拓に嬉しい事があると自分の事の様に喜んでくれた。
そして何時でもどんな時も私達を守ってくれた。
三人の誰よりも家族を大事にしているお父さん。
痛い程切ない程にその嘘偽りの無い真っ直ぐな思いが私の心に伝わってくる。
きっと拓も同じだ。
お父さんからしたら永遠にずっと私は拓の姉であり拓は私の弟。
その存在はお父さんの中では当たり前であり絶対でなくてはならないはず。
けれど私達はさっき迄そのお父さんの思いにまるで背く様な事をしていたばかり。
お父さんの問いかけに私が少し口籠もってしまったのはそんな思いのお父さんに対して後ろめたさを感じてしまっていたから。
拓が直ぐに返事をしなかったのもきっと私と同じ気持ちだったはず…。
家族という型は誰も崩してはいけないものなんだ。
そこに許されるどんな理由があったとしてもきっと。
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