episode 6

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お父さんと三人での話が終わるとそれぞれ順番にお風呂に入り私は早めにベッドに潜り込んだ。 目をつぶるとお父さんと拓との抱えきれない沢山の楽しかった記憶が蘇る。 次第に胸は温かくなって目を閉じながら笑みがこぼれていた。 この家族に出会ってから私は嬉しい気持ちも三人で分け合いそして悲しい事があったそんな時もお父さんと拓がそっと寄り添い決して私を一人にはさせなかった。 私は幸せだった…勿論今もきっとこの先も。 お父さんと拓は私と家族になってくれた。 二人は私の大切な家族。 家族───────────。       次の日曜日。 私達三人は金子さんに写真を撮ってもらう為に写真館を訪れていた。 金子さんはお父さんよりも一回り以上歳が上で定年を考え店終いをするのだそう。 老後はカメラの腕前を生かして全国の美しい風景を撮る予定なんだとか。 店の中へ入ると壁一面に沢山の写真が飾られその中には家族写真も幾つかあった。 その中でお父さんとお母さんが椅子に座りその後ろに肩に手を添えた子供達が笑って立っている写真があった。 それを眺めていたお父さんはどうやらその感じが気に入った様で早速お願いをして金子さんが奥から上等な椅子を一つ抱えて持って来てくれた。 金子さんはその椅子を中央にセットするとまずお父さんを座らせた。 姿勢を正して足は少し開いて手は膝の辺りに…細かい注文を受けつつもお父さんの顔は和やかだった。 続いて私と拓も後ろに立ちお父さんの肩に手を添えた。 「いやぁ。本当に穏やかで良い家族ですよね貴志さん家は。」 「はは。ありがとうございます。そう言えば町内会のお祭り以来でしたかね子供達と金子さんは。」 「そうだったと思う。確かあの時は中学生だった様な…三人共ニコニコしながらたこ焼き食べてたのを思い出すなぁ。」 「良く行ったなぁ三人で。今は仕事や学校やらでなかなか三人揃っては行けなくなっちゃったんですけどね…金子さん家のさんは相変わらず元気ですか?」 「それが昨年体調崩して今入院してるんだよね。まぁお互い歳だしね。でも来週退院だからさ。」 「こっちの貴志が心配してたって伝えておいて下さい。」 「うん。分かった。ありがとう。」 金子さん家のさんとは金子さんの双子の弟さんだ。 お父さんも貴志で字も同じ名前の為親しみを込めて下の名前で呼ばれているらしい。 そんな他愛のない会話をしながら気が付くと パシャリとシャッターを押されていた。 かしこまってポーズをとるよりも緊張しないで自然な笑顔が引き出せるのだとか。 金子さんはその後も何回かシャッターをきって全ての写真をパソコンで見せてくれた。 三人で写真を選んでいる後ろから顔を覗かせる金子さんはまるで自分の事の様に自慢げにこう言った。 「今まで沢山の家族写真撮ってきたけどさ貴志さん家以上の家族は見たことないよ俺。深くは分からない事もあるけどさ、でも分かるんだよな何となく。一人一人が本当大切に思い合ってる感じが。」 金子さんの言葉にお父さんは私と拓に万遍の笑みを向け心の底から幸せそうだった。 そんなお父さんの顔を見た私もつられて笑顔になる。 横目で拓を見ると拓も優しく微笑んでいた。 皆がこうして笑顔でいられる毎日がずっとずっと続きますように。 心の中でそう願った。 そしてお父さんの大切な物を自ら損なう様な真似だけはしてはいけないんだと…。 私は開きかけた想いにそっと蓋をした。
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