episode 7

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episode 7

ここ何日か朝から神谷さんは外出したまま終業時間迄帰って来ない日が続いていた。 私が出社する頃には既に外に出ており顔を合わせない時もあった。 と言うのもライトベール化粧品の新商品でナチュラルベールシリーズが口コミで評判が広がり先日雑誌で取り上げられた。 そして毎年行われている全国の化粧品会社等が集結して自慢の商品を宣伝する大規模な祭典に我が社もこのナチュラルベールシリーズを出品した所数々のサロンオーナー様の目に留まり更に忙しくなった。 そこまで大きな会社ではない為沢山の問い合わせに対応しなければならない営業さんはあちこちに足を運んで本当に大変そうだった。 私は私でそんな状況の中やる事も増えてお昼休みを返上して仕事を熟していた。 ケーキ屋さんのバイトがあるので残業は出来るだけ避けたかったのだ。 カタカタと右手でおにぎりを一口頬張ってはデスクに置いてキーボードを叩き、そんな最中に電話が鳴り口の中のモゴモゴとしている塊を急いで飲み込み電話に出る。 電話の横にセットされた真っ白のメモ用紙は今日一日だけで既に上から下迄注文やら何やらで黒く埋め尽くされていた。 そしておにぎりを食べ終わると私は席を立ち御手洗いへと向かう途中壁に掛けられたホワイトボードが目に入った。 『神谷─サロンボニータ』 神谷さん…頑張れ。 話によるとこのサロンの大口の契約が取れれば我が社にとってかなりの利益が見込めると聞いた。 私は内心自分の事の様に朝から落ち着か無かった。 ソワソワした気持ちを抱えながら御手洗いを済ませ再び席に戻ると途端に電話が鳴った。 「はい。ライトベール化粧品です。」 「あっ、高井さん?」 その聞き覚えのある声に名前も聞き返す事無く私は。 「神谷さん。お疲れ様です。高井です。」 「お疲れ様。なんか俺がいない間高井さんに仕事のしわ寄せ行っちゃってるみたいでごめんね。」 「いえ、大丈夫です。それより神谷さんこそ多忙を極めてますけど体調とか平気ですか?」 「気を張ってるから今の所はね。後からドッと疲れが押し寄せてくるかもな。あっ、そうだ部長居る?」 「今席外してますけど。伝言しますよ。」 「うん。実はさ今日契約が取れてさ。その報告。」 「えっ!凄い!おめでとうございます!」 「ありがとう。なんか一番の報告が部長じゃ無くて高井さんで嬉しかった。」 「えっ、あの…私なんかで喜んでもらえてこちらこそ嬉しいです。」 「俺の契約祝いに俺の奢りで飯行こうね。」 「ぷっ。何ですかそれ。私がご馳走しますから。」 「…っあ、じゃあそろそろ電車来るから、うん、飯行こうね。高井さんも仕事頑張って。」
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