episode 7

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私と神谷さんは人で賑わう繁華街を歩いていた。 お互い仕事を片付け定時に会社を出て今夜は神谷さんの契約祝いをする事になっている。 あの時電話で神谷さんの契約祝いなのだから私がご馳走しますと言ったのに神谷さんは一切聞く耳を持ってはくれず結局私はご馳走してもらう側になったのだった。 これではお祝いにならないなとずっと思っていると横を歩く神谷さんが私に顔を傾けて。 「何食べたい?」 目尻に皺を集めてニコリと微笑みそう言ってきた。 「神谷さんは何食べたいんですか?」 「俺は食後のデザートがあれば何食べても良いんだよね。あはは。」   「そう…ですか。分かりました。じゃあ焼き肉にしましょう。」 「オッケー!」 神谷さんに任せておいたら一向に決まらない気がして思い切ってこちらから提案して決めさせてもらった。 周りをキョロキョロと見回しながらお店を探すと当たり前であるかの様に数メートル間隔で少なくとも三軒の焼き肉屋があった。 繁華街ともなれば他店との競争率も高い為それなりにどのお店に入ってもハズレる事は無い。 私達はとりあえず今の位置から一番近い焼き肉屋の看板に目を通すとそこに壺漬けカルビと書かれていた。 「わぁ、壺漬けカルビだ。」 「高井さん食べた事ある?」 「いや、まだ無いんです。テレビで見て気になってて…美味しそぉ。」 「良し!決まり。ここ入ろう。」 「え!?他のお店見なくて大丈夫なんですかっ?」 「大丈夫大丈夫。」 「ちょっ…神谷さんっ。」 神谷さんはスタスタと店内に入って行ってしまった。 そんな神谷さんの後を追いかける様に私も続いてお店に入って行く。 店内に入ると店員さんがこちらに小走りで向かって来るなり満席と言われてしまった私達は十五分程で空くとの事だったので用意された椅子に並んで座り暫しの間そこで待つ事にした。 椅子に腰を下ろすと店内の壁一面に数々の名だたる芸能人達のサイン色紙が飾られていて神谷さんと私は食べる前から気分が盛り上がる。 そしてさっきの店員さんが私達に先にメニュー表を渡してくれたのでどれにしようかと端から端まで見ていくと余計にお腹が空いてきて席が空くのをチラチラと何度も確認してしまうのだった。 「やっぱりこれでしょ。高井さんは。」 神谷さんがメニュー表の一番目立つ中央に載せられた壺漬けカルビを指で軽く叩く。 「勿論です。この壺にたっぷりと漬けられて味の染み込んだカルビを早くトングで持ち上げたいです。」 「あはは…って、持ち上げたいの?食べたいんじゃ無いの?」 「壺の中からトングで持ち上げて行く感じもテレビで見て良いな~やってみたいな~って思いました。あのっ、食べたいも本当ですよ!」 「あぁ~でも分かる気がしてきた。あのデロリンッとした肉をトングで掴んで俺も焼いてみたいかも。あ~腹減ったな~。」 「早く席空かないですかね…。」 飲み物とお肉の種類も決まって私達は店員さんに呼ばれるのを待つ。
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