episode 7

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「お待たせ致しました。二名様左手のお席へどうぞ。」 待たされた時間は十分程で早く呼ばれて嬉しくなり椅子から立ち上がる足に力がみなぎる。 席に着くなり店員さんに一気に注文をしてとりあえず出されたお冷やを半分以上飲んで空腹を紛らわした。 袋から熱々のお絞りを出して手を拭いていると先にまず生ビールが二つ運ばれて来て神谷さんとおめでとうの乾杯をした。 大きな仕事を達成した後のお酒はそれはそれはどんなお酒でも美酒に様変わりしてしまうのだろう。 神谷さんの口にビールが吸い込まれる様に入って行くと眉毛をハの字に下げ顔のありとあらゆる筋肉が解放されてその目線の先には荘厳な景色でも見ている様なそんな顔をしていた。 亀谷部長から神谷さんの昔話を聞いていた私は仕事に対する捉え方や真面目で頑張る姿勢に改めて神谷さんを先輩として、そして大人の男性としても尊敬している。 人間だしやっぱり見た目からの情報はかなりの影響力はあると思う。 特に神谷さんの場合はイケメンで背も高くてスタイル抜群で感じも良い。 そんなだから正直私はそのオーラに圧倒されてしまってついこの間迄私の中で様々な憶測が頭の隅にほんの少しあったのは事実。 それもちょっとだけその…マイナス?の。 あれだけイケメンなら他にも女性は居たり…もしかして割と軽い…とか。 でもそうじゃ無さそうだとやっと思えたのが亀谷部長からの言葉だったんだ…。 「この間神谷さんから契約決まったって電話もらって私が亀谷部長に伝えた時にその後少し神谷さんの話してたんです。」 「へぇ~俺の噂話?」 「はい。神谷さんと亀谷部長って仲良いですよね?」 「うん。多分俺の中では会社で一番仲良い。部長だけど。なんか親しみ易いんだよな亀谷さん。」 「親しみ易いですね。こんな下っ端の私にさえ普通にしてくれますから。」 「端から見てると父と娘が成り立ってるよ。はは…あっ、そうそう思い出した。。」 「?」 「俺が異動して来る時にさ亀谷部長と吞みに行った事があってさ。当時俺は本当ヤバいぐらい忙しくしててさプライベートとかもひっちゃかめっちゃかで。それもあの鬼の様に忙しかった仕事が原因だったのと俺自身の性格?からなんだけどね。」 「はい。」 私は神谷さんの話す内容を全て把握していたけれど知らないふりをして相槌を打つ。   「俺、仕事に一旦スイッチ入ると周りを見ようとしなくなるんだよね。何て言うか自分で言うのもあれだけど一生懸命になり過ぎる様で…でね、営業になると自ずとアシスタントの子が隣につくって聞いてたから俺言ったんだ亀谷部長に。」 「チョレギサラダで御座います。」 店員さんに話を遮られながら神谷さんは続ける。 「俺の営業アシスタントになる子は自分をしっかり持っている様な子が良いって。」 神谷さんは亀谷部長にやはりその様な話を過去にしていたから私にあんな事を言ったのだと今この言葉を聞いて私の中で繋がった。 「で、いざ異動して来てみたら勤勉な高井さんが居たって訳。」 「勤勉なんて初めて言われました。」 「何言ってんの。家の会社で一番ストイックに働くのは高井さんの他には見当たらないよ。」 「神谷さんが居るじゃないですかっ。」 「だから俺以上だよ。」 「周りが認めてるよ。高井さんの仕事ぶり。」 神谷さんの話をしようとしていたはずがいつの間にか私の話にすり替わっていて褒められる準備なんてしていない私は急に物凄く恥ずかしくなった。
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