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私は自分の事を褒められたりするのには慣れていないし得意では無かった。
勿論嬉しくない訳では無いけれど例えば今みたいに仕事に対して自分は凄いみたいに言われてしまうと私自身が目標としている領域にまだ片足さえ踏み込めていないので、そんな状態でこんな風に褒めてもらうのは何か違和感と言うか納得迄はいかないからだった。
恥ずかしさを早く納めたくてお皿に綺麗に並べられたお肉をトングでふぐの刺し身を豪快に食べるかのように何きれもすくい取って炭焼きの網の上へのせる。
「あは!豪快っ。」
「良いんです!沢山焼いて一気に食べましょうね、えいっ、まだスペースあるからのせちゃおう。」
生ビールそしてサラダとさっきから次々に注文したお肉がテーブルに並んでいた。
出されたお肉が焼き上がり口に入れ始めると待ちに待った壺漬けカルビが運ばれてきた。
「うわぁ。」
「うお~すげぇ。」
蓋を開けてトングを使って重量感のあるカルビを持ち上げると二人共声を出して驚いた。
「大きいですね。お腹大丈夫ですか?」
「うん…多分。とりあえず焼こうか。」
網をほぼ占領してしまう位の大きいカルビに私は目がくぎ付けになっていた。
「あ~お腹はち切れそうだぁ~。」
「最後のあの残ったカルビ神谷さんにかたづけて貰っちゃってなんかすみません。私が食べたいって言ったのに…。」
「いや、美味かったから食べられて満足。高井さんは?」
「はい!満足です。そしてご馳走様でした。」
「今度は何食いに行こっかね~。」
お互いにお肉とライスでお腹が満腹で食べようと思っていたデザートを見送る事にしてお店を後にした。
ふと腕時計を見ると二十時を少し過ぎた所だった。
会社が終わって直ぐに向かったので割と時間を有効に使えたみたいだ。
神谷さんは特に次に何処へ行くのかも言わずにただ私の前を歩いている。
そんな神谷さんの少し後ろを私も歩いていく。
背の高い神谷さんの後ろ姿。
チラッと体を捻る様にして私の存在を確認してきたその時ネクタイが解かれ開放的になった首周りが目に入る。
女性のうなじが男性は好きだと聞くけれど男性のうなじは女性よりも筋肉質ではあるもののそのしっかりとした力強いラインが私は美しいと思った。
こうして夜の繁華街を歩く神谷さんはさっきから道行く女性が目線を投げている事に気が付いているのかは分からないけど、皆が口を揃えて格好良いと言えてしまう位に本当に素敵な人なんだよな…中身も全部。
色々な一言では片付けられない複雑な想いに向き合う日々だったけれどでもこの間のあの話から亀谷部長が私にきっかけをくれた気がして。
「神谷さんっ。」
先を歩く神谷さんを呼び止める。
「ん?どうしたの?」
「あの…告白の返事まだでしたよね。」
「うん…あっ、ちょっと待って。ふぅ…良いよ。」
大きく深呼吸する神谷さんは目をパチパチさせながら私に向き合う。
「大分お待たせしてしまってごめんなさい。まだ神谷さんの気持ちが変わっていなければ私とお付き合いしてもらえますか?」
今までの躊躇いは何だったのかと思わせる程に不思議と素直に言葉が出た。
「絶対大切にする俺。」
神谷さんはそう言いながら人目もはばからず私をキュッと抱きしめた。
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