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0-2 悪党
内田の手下を殴り倒し、第一理学実験棟に踏み入った私たち。
けれど中は電気もついていないし、そもそも初めて来るところだしで、どこを目指せばいいのか分かりません。
周りに誰もいないことを私たちに確認させた教官はスカートのポケットを探り、黒いゴムで巻かれた乾電池のようなものを取り出しました。
教官が軽く握り込んで魔力を送り込むと、機械じかけになっているそれはカシャカシャと音を立てて伸び、銀色の金属でできた質素な〈杖〉に変形します。
【こらオッパイ、見取り図】
【はいはい、おちびの大佐ちゃん】
と、頭の中で教官と若い女性が会話。
これは魔法によるものではなく、〈杖〉の持つ通信機能──れっきとした現代の技術によるものです。〈思念通話〉と言ってしまえば魔法に片足突っ込んでるような気もしますが、五年ほど前に合衆国の国防高等研究計画局が実用化し、ANNAのような特務機関や軍の特殊部隊でのみ使われている最先端技術なのです。
そして通話の相手はANNA本部の管制室から私たちを見守っている、謂わばオペレータ──ナツミ教官の十年来の戦友でもある、フスタ=アンドレーア・ヴァンロッサム戦術管制官です。階級は2尉。実際の見た目は──まあ、セクシーな女性です。
フスタさんは眠たそうに答えると、教官の〈杖〉に各階の見取り図データを送信。ホログラムでそれを空中に表示させ、五階のとある一室を赤くマークしました。
【この突き当たりの大教室に魔力を励起した痕跡がある。多分そこが根城だよ】
【魔力は内田のモンで間違いない?】
【属性も固有波形も〈インデックス〉のデータと一致してる。内田本人と断言して差し支えないかな】
【オーケー、しばき倒しに行くわ】
教官はエレベータを呼び出し、五階のボタンを押下。抑揚のないアナウンスが流れ、それからエレベータは動き出しました。
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