0-2 悪党

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 五階の大教室前。 『……もうみんな知らせが回ってると思うけど、一応この場でも共有しときます。船橋マリナさんを勧誘しようとした僕たちの同志、経済学科三年の佐藤(さとう)タロウくんと漢文学科一年の鈴木(すずき)リコさんが警察に逮捕されました。自由党政権による不当な逮捕です』  私たちはドアの隙間から中の様子を伺っていましたが、中では教壇に上がった男子学生──内田ジュンが、ホログラムのスライドショーを映しながら演説していました。  話を聞いている手下たちはざっと数えて五十人ほど。こちらに背を向けるように座っているので顔は見えませんが、格好や雰囲気からはみんな学生に思えます。  魔法使いとその手下というより、学生運動の集会という方が印象としては正しそうです。演説の内容もなんか政治的な感じですから。 【ああやって何の関係もないカタギを騙して手下にしてるのよ】  と、ナツミ教官が通信越しに話しかけてきます。 【学生運動という体で人を集めて、適当な陰謀論で言い含めて従えてるの。マリナ学生に麻酔弾ブチ込もうとしたあの二人も、こうして集められたカタギだったわ】 【政権がどうとか言ってますけど、マリナと一体なんの関係があるっていうんですか……】 【気にするだけ無駄よそんなこと、どうせただの出任せだから。それより大切なのは、これがネオ・バプテストの本質だってこと】  本質? 【奴らは目的のためとあらば、こうして騙したカタギに自爆テロをさせることだって厭わないわ。魔法使いなんていう裏社会の事情に、平気で無関係の人間を付き合わせるの。人の心とか無いのよ】 【そんな奴らがこの子を狙ってるっていうんですか】 【ええそうよ。だから守るの。なんとしてでもね】  なんて危険で汚い連中なの……。  世界征服とか言われてもピンと来なかったけど、そうやって言われるとやっぱり警戒心が増してくる。もしそんな奴らにマリナが捕まったら何をされるか分かったもんじゃない。ただ間違いないこととして、最終的に殺されるか、死ぬより酷い目に遭うに決まってる。  そんなの絶対に嫌だ。自分がそうなるならまだしも、自分の幼馴染がそうなるなんて。  ……だったら、護らなきゃ。強くならなきゃな……。 【さて、もう少しこのクソみたいな御託を聞いていきましょうか。会場のバイブスが最高にアガったところで突入して、あのクソッタレの悪党をふん縛るのよ】 【【了解!!】】 【フスタもサポートよろしくね】 【はいはーい】  ドアの向こうの大教室では、まだ内田が教壇に立っていました。  最初は比較的落ち着いていた演説も少し熱を帯び、『そうだそうだ!』『その通り!』と合いの手を入れる手下の声も聞こえてきます。  カタギを騙すために適当にでっち上げてる演説とはいえ、人々から同調されるとやっぱり気持ち良いみたいです。楽しそうな顔が最高にムカつく。 『……政府は先日、東京コロニーのさらなる拡張を閣議決定しました。自然環境を愛する僕たち市民の反対にも関わらずです。……』 『けしからーん!』  ……まだまだ。 『……またYouTuner(ユーチューナー)の〈きゅう・あのう〉さんによれば、いま自由党では〈四・〇五(ヨンテンゼロゴー)〉以来無期限凍結されている縮退炉研究の再始動が議論されているそうです。もちろん極秘でです。……』 『ふざけるなー!』  ……まだまだ。 『……そうした動きの全ては自然環境を率先して破壊し、地球を人類が住めない星に変え、それを口実に宇宙植民という名目で軍事研究を推進、憲法を改悪して大日本銀河帝国を樹立し……』  ……まだまだ、いやそろそろ? 『……そのためには何が何でも船橋マリナさんの力を借りなくてはなりません。かの船橋ヒカリ艦長が命がけで内務省から盗み出し、娘のマリナさんに受け継がれた、自由党重鎮の犯罪リスト! これを白日の下に晒し、自由党を政界から完全永久追放して、本当の世界平和と民主主義を実現するんです!』 『ウオオオオーッ!! 世界平和!! 民主主義!! ウオオオオーッ!!』  ……今だ!
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