プロローグ

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プロローグ

 時に、西暦2050年4月。  私たち以外の人が消えたネオ台場(だいば)の街。  ほのかに青く光るビルや地面、異様に大きく明るい満月。  私たちの目の前にいる、銀髪碧眼に白い軍服という姿の〈魔法使い〉の少女。  そして今しがた彼女に倒された、二人の男女。  何、これ……?  その〈魔法使い〉は、言いました。 「アタシたちは国際連合直属の特務機関、ANNA(アンナ)。ここはアタシが魔法で張った〈結界〉の中よ。  船橋(ふなばし)マリナさん。あなたには、アタシたちの仲間になってほしいの。〈魔法使い〉としてね」  船橋マリナ。  私の腕の中で腰を抜かして震えている、褐色碧眼に青いリボンの女の子。  色白な私とは何かと対照的な、私の大事な幼馴染。  そのマリナが、何故? 「あなたの遺伝情報には、〈世界を滅ぼしかねない究極の戦略魔法〉が暗号化して隠されているの。  そこで伸びてるそいつら──〈ネオ・バプテスト〉は、それを狙ってきたのよ」 「なんの、ために……」 「世界征服のために。だから自衛する力を身に着けてほしいわけ」  世界を滅ぼしかねない、究極の戦略魔法?  そんなまさか。  だいたい、〈魔法〉が実在したってことすら信じきれてないのに。  それ自体はもう目の前で使われたんだから頑張って受け入れるとしても、〈究極の戦略魔法〉って……なんでマリナにそんなモノが。 「信じられない? 園寺(そのでら)チカイさん」 「当たり前じゃないですか」 「無理もない。  けど、それを理由にマリナさんを狙う危険な連中がいるのはもう分かったでしょう?  人混みに紛れてこっそり近づき、あなたの大事な幼馴染に麻酔弾をブチ込んで連れ去ろうとしていた、そこのそいつらみたいなね。  だったらもう、それで十分じゃない? 動機としてはさ」 「………………」  マリナ……。  怖いよね。いきなりこんなこと言われて。 「マリナ帰ろう、こんな話聞くことないよ。あの話が本当だとしても、今までは普通に過ごしてきたじゃない」 「五年間」 「「??」」 「アタシたちがそいつらと戦ってきた年数。同時に、そいつらがマリナさんを狙い続けてきた年数。今年で六年目ね」  は?  五年間?  五年の間ずっと、私たちに気取られることもなく、影でこんな戦いを繰り広げてきたと?  五年の間ずっと、私たちに気取られることもなく、マリナは狙われ続けてきたと? 「アタシたちは五年の間マリナさんを守り続けてきた。  でもこれから先も守り通せるとは限らない。そして一度でもアタシたちがしくじれば、それでもう世界はお終いってわけ。  アタシはね、そうなってしまう確率を一パーセントでも下げたいの。それには当のマリナさんを仲間という形で庇護下に置き、訓練して自衛手段を持たせるのが極めて有効。そうでしょ?  それを踏まえて、どうする? マリナさん。イエスと言ってくれたら助かるんだけど」 「マリナ……」 「………………なり、ます……」  マリナ!? 「なります、魔法使い……。  だって、わたしのせいでそんな悪いやつらが湧いてるんですよね……?  遺伝子のことがほんとかどうか、それは分かんないけど……いずれにせよ、わたしにだって多少は責任があるでしょう……?」 「よし、決まり♪ ありがとうマリナさん、それじゃ明日から──」  ちょ、ちょっと、マリナそんな──! 「待ってッ!」 「どうしたの? チカイさん」 「マリナが魔法使いになるなら、私もなります……。私も魔法使いにしてください。じゃなきゃ、マリナを連れては行かせません!」 「チカイ……!?」  遺伝子のことが、究極の戦略魔法とやらのことが本当かなんてこの際どうでもいい。  ただ、マリナだけ一人でなんて行かせない。  これまでずっと一緒だった。  だったらこれからも一緒にいたい。  だから一人になんて絶対させない。 「行かせません? これはマリナさんの選択よ。幼馴染とはいえ、何の権限があって口を出すのかしら」 「っ…………それは……」 「チカイいいから、これはわたしの──」 「でも気に入ったわ。その心意気買ってあげる。園寺チカイさん」 「はい」  月夜の下で不敵に笑った〈魔法使い〉。  彼女はその目を碧く光らせて、言いました。 「そこまでその子を愛するなら、何がなんでも護りなさい、護り抜けるほど強くなりなさい。  それを誓うなら、あなたも一緒に仲間に加えてあげる」  誓うに決まってる。  この子のためだったら私は何だってする。血反吐だって吐いてやる。  だから。 「マリナ。手の甲、出して」 「わたしの勝手に付き合うことないよ」 「マリナ」  ダメ。  マリナが何と言おうと私はそうする。  マリナが選択をするなら私にだってその権利があるでしょ。  これは私の名に懸ける誓いのキス。  絶対に護ってみせる。  この世のどんな悪意からも、私は私の幼馴染を護ってみせる。 「よし、決まりね♪」  それを見た魔法使いは、満悦そうに笑っていたのでした。
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