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真っ先に目に映ったのは、真っ白なドレス姿を着ている彼女は椅子に座ったまま海を眺めていた。
「いつも、ああなのよ。」
苦笑いをする紅葉さんは車から降りて、彼女の元へ歩いていく。
「伊藤さんは。」
「残念ながら完全に記憶が戻らないそうだ。今日、病院へ言ったらそう言われた。無理もないだろうな、お前は勝手に殺されたんだから。あの時な、伊藤さんやっぱり怖かったのか拳銃を握り締めたまま陸にあがったんだが。逆上した加納大翔に襲われたんだよ?」
「またかよ、てか加納大翔って刺されなかったんじゃなかったんだっけ?伊藤さんに。」
「それがな、あり得ない事にアイツはふらふらになりながら伊藤さんを殴ったんだ。駆けつけた警察官と俺の仲間に見つかった時、言いたくもないが。」
悔しそうに櫂さんは唇を噛み締めた。
「そうだったのか。じゃあ身籠っていた赤ちゃんは。」
「流産した。」
「なんて事だ。だからなかなか俺に会わせなかったんだな、頑なに拒否をしたのもそれか?」
「悪いな、隆哉。大事な日に暗い話になってしまって。これから先は俺達が引き取る事になったんだ。最初は相当怖がっていて大変だったよ?いまじゃあ、妊娠していた事さえ知らない。みんなの事も覚えていない。医者が言うには相当のダメージがあったんでしょう。ってさ。いつ戻るかはわからない。それでも、お前は伊藤さんの側にいるのか?記憶が戻る保証なんてひとつもないぞ。」
「櫂さん、俺は伊藤さんに初めて会った時から守ると決めたんだ。だから、お願いします、俺もこの家に住まわせてください。仕事は決まったし、ちゃんと払いますから。」
「隆哉君、気持ちは嬉しいけど。保証なんてどこにもないんだ。彼女は心と身体を壊されたからね、加納大翔に。君はまだ若い。いつか、きっと伊藤さん以上の人が現れるに違いない。その時に安易な気持ちで接して欲しくないんだ。また傷をつけられたくないからね。」
困惑する櫂さんに、俺は力強く拳を握りしめる。
「俺は、絶対に伊藤さんを裏切らない!何があってもだ。」
「困ったな。」
強い眼差しを受けた櫂さんは、ちらりと紅葉さんへ視線を向ける。
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