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玄関外で傘を手渡すと鮎沢さんは頭を下げて帰っていった。
その後ろ姿はやっぱりどこか哀しくて、見ているこっちまで切なくなる。
「緋奈星さま、そろそろ中へ」
「うん……」
雨の降り頻る深夜の外に立ちすくむわたしに後ろから静かに見守ってくれていた燈冴くんが心配して家には入るように促してくれるけど、空返事したきり振り向かなかった。
わたしもわたしで、考えてしまう事があるからーー
「……ねぇ、燈冴くん。明日はお父さんが退院して戻ってくるけど、なんて説明したらいい?」
「今日の事は黙っておいても支障がないと」
「ううん、そっちじゃなくて。鮎沢社長の企みのこと……」
「……そうですね。正直、私も少し悩んでいます」
「そう、だよね……」
秘書である燈冴くんの方が1番悩んでいると思う。誰よりも父とは近い存在で言いづらいだろうから……
「ですが私も社長には話した事がありますので」
「話したいこと……?」
何に対しての意味なのか、わたしは振り返って彼の顔を見上て尋ねるといつになく凛々しい目つきのその先に、本当の理由を物語っているように思えた。
「緋奈星さまは俺が守りますから。心配、なさらないでください」
ニコリと微笑んでくれる燈冴くんの真意は、この時はまだ知らなかった――――
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