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やはりわたしの父から不正を指摘された時の鮎沢社長の焦る態度が、決め手のようだけれど……本当にこれで良かったのかなって、苦渋の表情を浮かべる鮎沢さんを見ていてわたしが思う。
こんなはずじゃなかった、ときっと誰よりも彼が1番そう思っているだろうから。
「そうか……」
父の声のトーンが落ちているのも、鮎沢さんに対して複雑な思いがあるからのように聞こえる。たぶんそれは同情とは違う、同じ”子供”を持つ父の姿。
「芹斗くんは……君はこれからどうするんだ?」
頭を下げる鮎沢さんを、柔らかい口調で心配そうに気遣っているようにも思える。
鮎沢社長の失墜により、うちとの取引も終わり婚約も白紙に戻り一切の手を引く事になってしまい、父もまたショックはあるようだった。
でも、そんなの当たり前。信頼して会社を任せようとした相手だから。
「そう、ですね……父の事でまだ混乱が多いので、それが落ち着いたら会社の立て直しもしていかないとなとは思っています。こちらにも社員がいますので、守らないといけませんし……」
青白い顔色の彼は酷く疲れ切っているように見えて、絞り出すように話す言葉1つ1つにも覇気が感じられない。
思いつめているようにも見えるのはたぶん、気のせいなんかじゃない。
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