悲劇でも喜劇でもなく

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 黒死病が消え去り、街の閉鎖が解かれた頃、僕達の店に貴族が服の注文に来た。  貴族から服の注文が来るということ自体はじめてだったし、わざわざ足を運んでいただけるというのも畏れ多かった。  依頼主は、男の人だったけれどもとても白い肌をしていてきれいな人だった。その人の採寸をお父さんがやっている間、僕は採寸をされている依頼主と一緒にやって来た母親にお菓子を出して、少しの間お話をした。 「あの子もねー、派手な服は嫌って言うのよ」 「そうなんですか?」 「そうなの。でも、ある程度華やかな服を着てもらわないと、パーティーで困っちゃうのよね」  依頼主の母親は、気さくに僕に話しかけてくる。貴族というのはもっと近寄りがたいものだと思っていたけれども、この人は身分差というのをあまり気にしない人なのだろうか。  畏れ多くも僕達庶民の話も聞いてくれて、寛大な心持ちのその人には感謝しかなかった。
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