悲劇でも喜劇でもなく

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悲劇でも喜劇でもなく

 僕がまだ小さい頃、よっつ年上のお姉ちゃんが死んだ。  その時の僕はまだ小さくて、なんでお姉ちゃんが死んだのかよくわからなかったし、けれどももうお姉ちゃんには会えないのだということだけはよくわかった。  お姉ちゃんの葬儀の時、お姉ちゃんの棺桶の前でひどく泣いていたと、あとからお父さんとお母さんから聞いた。それくらい、お姉ちゃんに会えなくなるというのがショックだったのだろう。  葬儀のことはよく覚えていない。けれども、ひとつだけよく覚えていることがある。  お姉ちゃんの葬儀の時、厳かな教会の中で、お姉ちゃんの棺にふたりの天使が花を捧げていたのだ。  その時見た、サックスの巻き髪の天使と、夜空のような青い髪の天使が、男の子のように見えるのにもかかわらず、すごくきれいだったことがひどく印象的で、もしかしたら今でも顔を思い出せるかもしれないというほどだった。お姉ちゃんとそんなに変わらない年頃に見えたから、というのも、忘れられない理由としてあるかもしれない。  その天使ふたりは、お姉ちゃんのために歌を歌ってくれた。お姉ちゃんが安心して天国へ行くための鎮魂歌。あのきれいな歌声は、きっともう聴くことはないのだと思う。いや、できれば聞きたくなかった。あの歌声を聴くときは、誰かが死んだときだと、あの時すでに本能的に察していたのだ。  きれいな顔に、きれいな歌声。それを持ったあのふたりは、ほんとうに天使なのだとあの時は思ったし、お父さんもお母さんも、お姉ちゃんのことは天使様が迎えに来てくれたからちゃんと天国に行けると、そう言っていた。そして僕も、その言葉を信じていた。
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