悲劇でも喜劇でもなく

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 あの貴族の採寸が終わって、お父さんが布を買って裁断をした日の夜のこと。明日からあの貴族の服の仕立てを、僕も手伝うことになっている。そのことで緊張してなかなか寝付けず、しばらくはベッドに横になっていたけれども、起き上がって窓の外を見た。  すると、窓の外に人影があった。その人影は僕の視線に気づいたのか、僕の方を見る。  今日は満月だ。満月の光がその人影を照らす。その人影は、猫を模った銀色の、顔の上半分を覆う仮面を着けていて、ドレスのようなものを着た少女だった。  少女が口元に人差し指を当てて微笑み、なにやら荷物がたくさん詰まっていそうな袋を持って去って行った。  一体なんだったのだろうと不思議に思ったけれども、すぐに心当たりを見つける。彼女は、街の人達の間で噂になっている、悪い金持ちの悪事を暴く怪盗だ。あの仮面も、華やかなドレスも、噂の通りだ。  そんな彼女なのだから、きっと知らない振りをするのがいいだろう。そう思っていると、松明を持った警邏隊の人達が走ってやって来た。  窓辺でぼんやりしていた僕に、警邏隊が訊ねてくる。 「怪しいやつを見掛けなかったか?」  きっと、さっきの彼女のことだろう。僕は素知らぬ顔で返す。 「怪しいやつですか? なにかあったんですか?」 「見ませんでしたか。 お前ら、いくぞ!」  僕の言葉に何も疑問を持たず、警邏隊は走って去って行った。  彼女が捕まらなければいいのだけれど。
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