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 心を裸にして優悟と歩むうちに、藤侍の覚悟は自ずと決まっていった。 「優悟のおかげで目が覚めた。ありがとう」 着飾ることなく礼を述べて、藤侍は電話を切る。 何の気なしにカーテンの切れ目から外を覗くと、 彼を家まで導いた太陽は、とっくに地平線の陰に没していた。  脇目も振らず、踵の潰れた靴に爪先を滑らせる。 後ろ髪を引く刻限を撒きたい藤侍であったが、またしても母親に呼び止められた。 「ちょっと、藤侍! こんな夜にどこをほっつき歩く気?  晩ご飯もちょうど今できたのよ」 いつもの藤侍なら、無視してドアノブを引いていただろう。 けれど、親友の優しさに触れた彼は違う。 「……母さん」 俯き加減の真剣な眼差しは、 エプロン姿の母親をまっすぐ見つめるまでに至った。 「大和の家に行ってくる。晩飯は帰ってきたら、必ず食べるから」 自信に満ち溢れた視線がひたむきに送られる。 「あ、あぁ……そう? 行ってらっしゃい……」 息子の驚くべき変わり様を目の当たりにした母親。 零れる言葉は、何の変哲もない見送り文句に留まった。 「行ってきます」 藤侍は喜将と同じく、他人に対して得意顔で語れるような刀を持ってはいない。 彼の為さねばならぬことは、古き絆がその輝きではっきりと指し示していた。  感情の乱を乗り越えた少年が、胸の震えに戸惑いつつも、 垢抜けない刀で懸命に夜道を斬り拓いていくのだった。
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