娘っ子の異変

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 僕はパグ。それもスペシャルなパグ。顧みれば、あの日は主人の帰りが遅かった。で、主人のパパさんとママさんが僕に夕飯をやるのを忘れる位、心配して落ち着かないでいた。実は僕が主人と呼んでいるのは中学2年生の娘っ子のことなのだが、親バカと言うのか、パパさんは鼻の利く僕を頼りにすればいいものを当てもないのに独りで娘っ子を探しに行った。それから漸うママさんが僕に夕飯をやってないのに気づいて持って来た。  僕は勿論、娘っ子が何で帰って来ないのか、心配ではあったが、それより腹を満たすことが先決だったので夕飯にむんずとかぶりついた。やがてこんなことで良いのかと罪悪感を覚えつつゆっくり味わって食べるようになった頃だった。丁度、帰途に就いた娘っ子と出くわしたのだろう、パパさんが娘っ子と一緒に帰って来た。で、僕は思わず食い物を吐き出してワンワン吠えながら娘っ子を出迎えた。それこそ哺を吐くといった具合に。すると娘っ子は泣きながら僕に抱き着いた。今にして思うと、女の子はああいう場合こうなってしまうものなのだと悟るに至った。娘っ子は家族の誰よりも僕を愛しているし、僕と親しくしているからママさんよりも弟よりも真っ先に僕に抱き着いたんだなあ・・・  明くる早朝、娘っ子は僕をルーティンとなっている散歩に連れて行ってくれた。その道すがら昨晩の真相を明らかにしてくれた。娘っ子は密事にすべき大事な大事なことは僕にしか打ち明けないのだ。で、娘っ子は例の如く、「腹心の友よ」と呼んでから話し出した。「実はね、プーちゃん。私、部活後、河川敷で休んでたら知らぬ間に居眠りしてそのまま寝ちゃったから遅くなったってパパには言ったんだけど、違うの。ほんとのこと言うとね、家庭教師のお兄さんのアパートに遊びに行ってたの。って言うか、家庭教師のお兄さんがね、偶然河川敷にいたから私、声を掛けられてついつい誘われるが儘、アパートまで付いて行っちゃったの。私、正直、お兄さんのこと、好きだし、好奇心旺盛なもんだから。で、どうなったと思う?」  娘っ子とは長い付き合いで娘っ子を幼女の頃から知っているから娘っ子の異変に何となく気づいていた僕は、どきどきしながら恐らく真ん丸な目をもっと真ん丸にして娘っ子をぎょろりと見上げた。すると、娘っ子は恥ずかしそうな悲しそうな、でも、どことなく嬉しそうな顔をして言った。 「処女奪われちゃった」  そんなことだろうと何となく分かっていた僕は、痛かったかいって訊いてやりたかったが、勿論言えなかった。  それからというもの娘っ子は僕よりも家庭教師のお兄さんを好きになってしまった。でも、お揃いのマフラーで今日も散歩に出かけられるだろうからま、いっか・・・
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