屋根の上の恋人たち

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 決めたのは、生きるのは同じ国にしようということだけ。  この不死の身体は、霞にすれば何処にでも行ける。同じ国にだけ居て、互いに寄り添える人を見付けたら最後まで寄り添う。ただし、決して異端者であることは露見しないように。相手に併せて外見を変化させることも忘れずに。そして寄り添った相手が寿命を全うしたら、その国の一番高い建物で待つ。  何時までも待っていても唯一の人が来なかったら、それは魂が消滅したと───……  今回のようにアーサーが待つ時もあれば、ソフィアが待ち続ける時もあった。再会したあとは、どんな人生を送ってきたか報告しあう。嫉妬の感情がないこともない。けれど、優しく穏やかな表情で寄り添った相手のことを語る姿を見るうちに、(ねた)(そね)みの感情は落ち着いていった。  しかし、語り合ったあとは、互いだけを見つめる。数年振りに逢う愛しい人を───  自分たちを変異させた存在は、何千年と過ごすうちに忘れてしまった。もしかしたら、ふたりが逃げ出した組織も(いま)だ存在していて、裏切ったふたりに追手が放たれているかもしれない。捕えられたら引き裂かれて心臓に杭を打たれるかもしれない。けれど、もう───違う生き方は出来なかった。  不安は常にある。唯一の人に逢えて唇を重ねている時も、温まらない冷えた身体を温め合っている時も、決して忘れることはない。  アーサーがソフィアの首筋に牙を突き立てる。ソフィアもアーサーの首筋に牙を突き立てる。血を飲むのは、互いだけだ。変異して最初のうちは衝動と枯渇に耐え切れず人を襲った。けれど、逃げ出してからは飲むのは自身の血か互いの血だけだった。不思議と互いの血は甘かった。  ただの人間として世間に溶け込み、耐え切れなかったら自分の血を飲み、再会した時には互いの血を分ける。それであの気が狂うほどの渇きは癒された。何千年と生きているうちに、日光も特に苦手ではなくなった。慣れであろうか。  子を成すことは出来ず、あらゆる動物たちにも嫌悪されるが、何とかこうして生きている。 「ソフィア……愛しているよ」  腕の中に居る愛しい人に囁く。 「私も。愛している、アーサー」  愛しい人に愛を注がれ、また自分も注ぎ返す。  何時までこんなことを続けなければならないのか。いつ逝けるのか、同時に逝けるのか。不安と恐怖は尽きない。けれど、また次に行った国できっと同じことを繰り返すだろう。 「お帰り」 「ただいま」  と、優しい笑顔で。
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