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やばい、それは私が7階に身を潜めていた時。
「あははは」
私は思いっきり笑って誤魔化した。
「まあ、いいでしょう。それよりも、警備員室に行って、退館手続きをして下さい」
「あっ、はい!」
私は馬渡さんにもう一度頭を下げると、警備員室に向かった。
警備員室に行くと、ガラス越しに見慣れた顔の白髪頭の警備員二人が何か楽しそうに談笑しているのが見えた。もうすぐ仕事終わりだからか、気を抜いているようだ。
「あの、すみません」
私が小窓から声を掛けると、一人がバインダーを持って来た。
「お疲れ様です。今日は休日なのに随分と遅くまで、気をつけてお帰り下さい」
落ち着きのある笑顔で挨拶された。
消灯時間を過ぎても現れない私にイラついている様子はない。
「す、すみませんでした。消灯時間を過ぎてしまって」
「えっ?消灯時間は22時ですよ。だから、下りてこられたんじゃないですか?あと、5分経って姿を現さなかったら、呼びに行こうと思っていたんですよ」
消灯時間が21時45分?
「えっ?でも先程21時って」
「21時?ああ、十何年前までは休日の消灯時間は21時だったなあ」
「えっ、いや私さっき21時って聞いたんでよ?あっ、じゃあ馬渡さんが勘違いしてたのかなあ」
私がそう言うと、白髪頭の警備員さんの表情が曇った。
「誰が言ったとおっしゃいました?」
「えっ?ああ、警備員の馬渡さんから聞きましたよ。今、見回り中の」
「馬渡だって?田中さん、貴女我々を揶揄いたいんですか?」
「えっ?どうしてですか?」
「どうしてって、貴女も知っているんじゃないですか?警備員の馬渡和人は昔、このビルの屋上から飛び降りて死んだんですよ」
私は自分の顔が青褪めていくのがわかった。
怖かった。
自分が怖かった。
まさか、幽霊にまで心配して貰っていたなんて。
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