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午後9時を回り、そろそろ帰らないと思い、デスクの上をひとまず片付け、バッグを慌てて持って、廊下に出た。
朝から、階段を全速力で上がったせいかヘトヘトだ。だけど、私は走った。
このビル、平日は9時20分を過ぎると、表のエントランスの鍵はロックされ、それ以降は裏口にある警備員室の前を通って出る必要がある。そちらのドアは駅とは真逆の方向にあるため、偉くまわり道になる。
それは避けたい。
今日だけは避けたい。
不本意な休日出勤。
いや、確かに私が悪かった。
得意先に新商品を勧めた時、先方が"今年は大赤字ですよ。巻き込まれてしまって"と深刻そうな顔をして言うから、私が"どうしたんですか?"ときくと、"お食事券でいっぱい食わされた"と先方から返答があった。
私は冗談かと思った。
そして笑った。
それは、それは大きな声だった。
大声で笑ったのだ。
いや、笑う事を求めているんだと解釈して目一杯笑った。
だけど先方を見ると、冷たい眼差しが私に向けられていた。
後から、会社にクレームの電話が入った。
"おしょくじけんでいっぱいくわされた"は"お食事券でいっぱい食わされた"ではなく、"汚職事件で一杯食わされた"だったのだ。
普段から失敗ばかりの私を上司だけでなく、同僚、そして更に後輩までもが心配そうに私を見ていた。
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