言葉の偉大さ

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言葉の偉大さ

病院につくと、すぐにたくさんある処置室の1つに案内された。 点滴をする時には、1人ずつ別の部屋へ通してくれる。 「今から点滴しますね」 看護師さんが準備を始めると、先生が血相をかえて来てくれた。 「生きててよかった!!!」 私を待っていてくれた先生の、第1声だった。 よく知っている先生の、聞きなれた声が、普段と違う息遣いなのがわかる。 生きててよかった? どういうこと? 「死ぬつもりはなかったんです。ただ、飛べると思って」 そう言った私を心配そうに見つめる先生、そして看護師さん。 「とにかく生きててよかった!今から点滴するからね。時間かかるからゆっくり休んでてね」 先生はいつも忙しくて、自分で患者さんのいる待合室や、個々の部屋まで小走りで移動している。 今日もいつも通りだ。 でも、いつもと違う。 生きててよかった。 その言葉を繰り返しつぶやいてみる。 私は飛んだんだ。飛びたかったんだ。 死のうなんて、これっぽっちも考えていない。 なのに…  私は死んでしまうようなことをしたんだ! もしかしたら死んでいたかもしれないんだ! 2階から落ちたくらいで死ぬなんてありえないと思っていた。 そうじゃないんだ。 絶対ダメなこと、しちゃったんだ。 先生、どんなに心配してくれたことだろう。看護師さんもだ。 あの様子から、容易に想像できる。 もっと早く、想像しなきゃいけなかったんだ。 命にかかわることだっていうことを。 飛ぶ前に、飛ぼうと思う前に。 先生の言葉に気づかせてもらった。 今、思う。 なんてことをしたんだろう…… 本当に生きててよかった! 病院から家までの道のりは、ものすごく疲れてしんどかった。 家の前で、娘を抱っこして待っていてくれた夫。 無事に帰って来られたことに、ほっとしたのは、 私が生きているからに間違いない。
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