***

2/7
前へ
/8ページ
次へ
 母親が好きな人、という質問には手を挙げたが、父親が好きな人、という質問に私は。でも、だからといって父が嫌いな訳じゃない。ただ好きか嫌いかと言われたら、好きでは無いのは確かだ。  小さい頃から父は仕事人間だった。家に帰っても父の姿は無く、夜中になるまで帰ってこない。私がまだ赤ん坊の時は随分と可愛がってくれていたみたいだが、小学校に入学したと同時にパタリと家にいる時間が少なくなった。  父が単身赴任という形で、一人暮らしを始めたのは私がまだ小学校中学年の時だった。私は勉学上、別の学校に母と転校し二人暮らし。父は仕事の為、その場に残った。それからというものの、一ヶ月に一回会うか会わないかの頻度に私たちは顔を合わせるようになった。  母と暮らすのが長くなり、父との思い出も薄れていく。父の背中さえももう思い出せない。  このまま行けば、私は父の声も、顔すらも思い出せなくなってしまうのだろか。血が繋がっていても、無かった人になってしまうのだろうか。そう思うと、離れるということが怖くなった。  大学に進学して、同じ土地に戻ってきた時に三人暮らしを再スタートさせた。それから4年。私はきっかり大学を現役で卒業して、就職。念願の一人暮らしを始めて、はや6年が経つ。父とももう何年も会っていない。  私が家に帰る時は、いつも父は仕事でいないのだ。また仕事かよ、と思っても父は目の前に現れない。魔法の絨毯に乗ってやっては来ないし、母曰く、一人暮らしをしているようだとのことだ。  呆れる。仕事だけがこの世の全てじゃないのに。たまには家族と一緒に過ごす時間を作ればいいのに。 「お父さんは私のことが嫌いなのよ」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加