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母がくすくす笑いながら何とも思っていないように言うと、私は「そうなの?」と聞く。すると肯定するようにこくこくと頷いた。
「家にいてもほとんど会話しないし、嫌いなのよ。だから私と一緒にいたくないみたい。今頃、別の女の所で不倫でもしてるんじゃない?」
「ちょっと、不謹慎なこと言わないでよッ」
私は母に強く言うと、母が舌を出して可愛げな笑みを浮かべた。私ははぁと溜息を吐くと、棚に置いてある家族写真を見る。まだ私が小学校に入学する前、幼稚園の頃の写真だ。ちゃんと母も、父も映っていて、全員笑っている。
この時だったら、きっと私は父の背中を思い出せただろう。でも今は、とても思い出せそうにない。同じ家に住んでいても、まるで別世界に住んでいるかのようだ。それぐらい、私たちはもう物理的にも、精神的にも距離が遠のいてしまっている。
だから私を待っていた父の姿に、とても緊張した。
「紹介します。彼氏の栗田学君です」
「美咲さんとお付き合いさせていただいております、栗田学です」
私は彼氏の学を家に連れてくると、今日だけはなぜか父が家にいた。でも家にいても、ぶすっとしていて不満そうだ。私は父を見るなり、バレないように溜息を吐くと申し訳なさそうに学を見る。
学は結婚の挨拶の為、とても緊張していた。
「まぁ、こんな素敵な人が美咲なんかで大丈夫なの?」
「ちょっとお母さん」
私は母を見ると、母がてへっと笑う。いつもの悪い悪戯だ。
「いえ、美咲さんこそ僕で良いのかって感じです。僕には十分すぎる人ですから」
私は学を見ると、学がフフッと微笑む。それを見て、照れ隠しに前髪を触った。
学と出会ったのは、就職先。同期で同じ部署に配属された。最初は男友達から始まって、段々と時間が経つにつれてお互い意識し合うようになり、そして付き合った。それから数年、私たちは結婚する。
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