くまぽこのお仕事

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くまぽこのお仕事

僕のお仕事は大体一年に数回。 クリスマスにはラッピングされた状態で 何らかの端っこに小さく映ったり、 アニメの撮影でジョンとマゼンタの戦いで ふっ飛ばされたり、とかそういうの。 グッズ化なんかも一応されたことあるけど 増産されることもなく、一回きり。 ある意味レアだけど市場価値は極めて低い。 僕をグッズ化しようとした大人は馬鹿だよね。 売れるわけなんか無いのに。 僕は別に仕事が好きなわけじゃないし、 今のゆったりした生活が気に入ってるんだ。 だからずっとこのままでいいんだ。 りすぴこともそうやっていつも言ってる。 なのに、ある日監督が馬鹿なことを言い出した。 「キッズTVでぬいぐるみーズを主役にした アニメを作ろうと思うんだ!!」 やめとけよ、コケるんだから。と僕は思った。 りすぴこも冷めた目をしてた。 だけどごりごろうは目を輝かせて 「はい!!是非やらせてください!!」と言った。 まじかーーーーーー。りすぴこと目を合わせた。 ごりごろうはめちゃくちゃ悪そうな見た目とは 裏腹に、純粋で、夢見がち。 いつも一緒にいる陽気なきりーんも 「おい、やめといたほうが良いんじゃないか。」と 止めに入っている。 今日も新聞を読んでいる目つきの悪いねこすけは 相変わらず無反応。 だけどもうすでに大人達の中では 制作が決まっているようで、 撮影は1週間後からだと台本が渡された。 僕たちの世界じゃ、偉い大人の言うことは絶対。 仕方なく台本を覚えることにした。 もともとの設定で、僕とりすぴこは 仲良し2匹組と決まっていたので、 話の中でも一緒に登場することが多く、安心した。 お花を摘んでハチにおいかけられたり、 ドーナツを取り合って喧嘩したり、ありきたりなやつ。 だけど、可哀想なのはごりごろうだった。 唯一1人だけやる気のあるごりごろうだったけど その見た目から、いつもワガママ自己中な 俺様役をやらされるからだ。 「僕、こんなお芝居したくないよ…。」と 涙をこぼしている。 きりーんが「だから言っただろ…。」と困っている。 ねこすけは相変わらず新聞を読んでいる。 …と思いきや、ちゃんと台本読んでた。 そしてついに翌週から撮影が始まった。 監督はとにかく怖い。いつもキレている。 「もっと表情をつくれ!!!!」 無理だろ、こっちはぬいぐるみなんだよ。 まず動いてるだけで奇跡なんだよ。 「ごりごろう、泣くんじゃねぇ!!!! お前は悪くて強い、ごりらなんだから!!」 「きりーん、首もっと縮めろ!邪魔だ!!」 …いろんなハラスメント飛び交いまくり。 こんなの世界のちびっこが見たら泣くぜ…。 なのに出来たアニメは誰がどう見ても ピースフルでハートフルだった。 特に、ねこすけの優しい演技は皆を魅了した。 そしてしばらくして、僕たちは ようやく初めての放送日を迎えた。 テレビで流れる、僕たちが主役の5分アニメ。 いろんな想いに駆られ、驚くことに 見終わった頃には感動して泣いていた。 ぬいぐるみだから涙は出ないけど。 世間の評判も良かったようで、 少しずつ僕たちの名前が世間に定着していき、 1年予定だった放送期間も延長が決まった。 まだまだジョンたちに比べたら モブでしか無いけれど、少しずつ僕たちの 活躍の場は増えていった。 アクションの技術を磨くために体を鍛えたり、 少しでも生地にほつれができると メンテナンスに通うようになった。 共に頑張るうちにぬいぐるみーズの絆は どんどん深くなっていった。 「なぁ、りすぴこ?」 「なに、くまぽこ?」 「僕は君がいてくれたから ここまでこれたんだ、ありがとう。」 「それは僕も同じさ。ありがとう。」 「これからも一緒に頑張ろう。」 僕は、僕がくまぴことして産まれたこと、 りすぴこの友達になれたこと、 ぬいぐるみーズの一員になれたこと、 このお仕事をできていることがとても幸せだった。 モブのモブでしかないときにはこんな感情 知らなかったよ。 ずっとこの幸せが続けばいいと思った。
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