帰る場所は

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帰る場所は

僕の帰る場所はたったひとつ、 ぬいぐるみーズのところしかなかった。 僕が一番戻りたくて、一番帰りたくない場所。 僕は人間みたいに自由じゃない、 自由に好きな場所へ行くことは許されない。 所詮、創られたキャラクターだから、 創られた世界の決められた場所にまた戻されるだけ。 せっかく羽がついていたってどこにも飛べやしない。 僕はただの惨めなくまだ…。 数年ぶりに会う仲間たちはきっと 僕をよく思っていないだろう…。 どんな顔をしていいのかわからなくて うつむいたまま扉を開ける。 皆がこっちを見ているけど言葉が出てこない。 少しの沈黙に息が止まりそうになっていたとき 懐かしく優しい声が僕に降り注いだ。 「おかえり、くまぽこ。」 「りすぴこ…」 僕は泣いていた。 涙はもちろん出ない、だけど 泣く、という言葉以外ではとても表現できない。 僕の綿の内側に熱いものがこみ上げる。 続いてごりごろうもきりーんも おかえり、と笑ってくれた。 ねこすけも新聞紙から目を離すと こちらに微笑んでいる。 レオパディーちゃんも… 涙目のように目をキラリと光らせて ニコリと笑いかけた。 みんな、暖かくて優しくて… だから… だから、僕は余計に悔しくなった。惨めになった。 みんなの優しさは嬉しくて悲しかった。 時間は二度と戻らない、あのときには戻れない。 だって僕はここにいる誰より努力した、 こんなところに戻ってくるはずじゃなかった。 あの頃の僕にそのまま戻れたなら、 またりすぴこと世間話する毎日に戻れたら どんなに良いだろう。 だけど自分のもう一つの心が邪魔するんだ。 「僕はもう、あの頃の僕じゃない。」 駆け寄るみんなの目を 僕は見ることができなかった。 「ごめん、みんな…。」 僕は背中の小さな羽を引きちぎり、走り出した。 後ろは振り向かない、 大事な人達と一生別れることになっても 僕は自分の道を突き進むんだ…。 見てろよ、必ず僕は大きな翼を生やし この世界の上空を飛びまわってやる。
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