三枝君はイジワル

1/1

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

三枝君はイジワル

隣のクラスの三枝(さえぐさ) 縁里(より)君は かっこよくて 運動神経もよくて 勉強もそこそこできて 面白くて 優しくて 人気者 小学5年生の時から私 濱田 ふじは三枝君に片思いをしている それは偶然 三枝君の蹴ったサッカーボールが私の背中を直撃したとき 思い切り倒れた私をお姫様抱っこで保健室に連れてってくれた 結局けがもなくあざもすぐに治ったけど 三枝君はとても心配してくれて ちょくちょく声をかけてくれた 中学になって三枝君は女の子たちに告白されることも多くなった 相変わらず話しかけてくれるけど  「ふじ ノート貸して」 「ふじ 宿題忘れた」 「ふじ 黒板消しといて」 てな感じで あれ?同じ三枝君?と思うほど扱い 「濱田さんて三枝君と仲いいよね うらやましー」 周りの女の子からはそんなふうに思われたり 嫉妬されたりする 確かに 距離は近い 私も『もしかしたら』なんてちょっと淡い期待しちゃったときもあるけど ただ単に“女として”見られてないだけだと気づく だって 「B組の吉田さんだっけ? あの子にコクられた」 とか 「バスケ部の榎本さんが俺のこと好きみたいだけど 巨乳だし付き合おうかなぁ」とか そんなこと平気で言ってくる 「中学の男なんてそんなもんよ」 おねぇちゃんは そういって かわいいわねと笑っているけど 吉田さんは同学年で1番人気の女の子だし 榎本さんはほんとに細いのにスタイルは抜群だ 中学時代はせめて胸だけでもおおきくならないかな って毎日牛乳飲んでた 高校も三枝君と同じだった 内心とっても嬉しかったのに 「あ ふじもここ受かったの?また一緒かよ」 と言われて 「三枝君も?もうパシらせないでね」とうんざりした顔をしてしまった そして何の因果か 2年も同じクラスだった 「ふじぃ パン買いいく? 俺のもお願い」 「ヤダよ 自分で行ってよ」 「俺ノート取ってるから 頼む いつもので」 押しに弱すぎる…いや惚れた弱み ついついオッケーしてしまう このかんけーいつまでつづくの? 「ふじまたパシリ?けなげだねぇ」高校で仲良くなった親友の神崎(かんざき) 凪海(なみ)ちゃん 「なみちゃん なんか自分が情けなくなる」 「よしよし」なみちゃんに励まされて 一緒に学食に向かう 「三枝君 ほかの女子には優しいのにね」 「ほんとだよ」 他の子にはジュースおごったりカラオケでもドリンクバーとか曲入れとか 率先してやるしほんと優しい 「こないだ先輩にもコクられたらしいよ」 「マジか?」 「でもさぁ あんなに人気でも 三枝君が付き合ったって話聞かないよ」 「もう 変な期待させないで」 小5からずっと思ってるのに 三枝君だって私の気持ちもしかしたら知ってるかもしれないのに 何も言ってこないってことは…期待しないほうがいい どんっ! 「あっ!ごめんなさい!」 「こっちこそごめん」 話に夢中で回り見えてなかった どうやらふざけあってた男子の一人が突然よろけて 私とぶつかったみたい 見上げると 隣のクラスの人だ 背が高くってイケメンだとうちのクラスの女子も言ってた…えぇっと 松田君! 「だいじょうぶ?」 「あ はい」ぼーっと見てしまった 頭を下げて そそくさと通りすぎる 「びっくりした」なみちゃんが言う 「うん」 「でも近くで見るとやっぱかっこいいね」 なみちゃんも彼がだれなのか知ってるみたい 「三枝君といい勝負だもんね 松田君」 三枝君とはまた違った魅力だなぁ 「なんか得した気分だね」 「うーん どうなんだろ? ぶつかっただけだし」 「もう!ふじは もっと積極的にならないと」 「えぇ…」 「三枝君一筋でも別に構わないけどさ」 わかってる 自分でも 不毛だと… パンを買って教室に帰ると 「おせーよ」と三枝君の一言 いや 頼んどいてその態度? 「ご ごめん」なんで誤ってるんだろ私 「三枝くーん にちょっとは優しくしてあげてね」 「あ 神崎さん 一緒だったんだ」この二人いつもこんな感じでピリピリしてるなぁ 「は優しくされてるって思ってるみたいだよ?」 三枝君はなみちゃんには私とも周りの友達とも違う対応をする なんか 怖いんですけど… 「そういえばさっき 隣のクラスの松田君にぶつかっちゃってさぁ 」なみちゃんが話を変える 「優しかったよね 『大丈夫?』とかふじの顔覗き込んでくれてさ」 「……! へぇ」 「あの高身長がふじの背丈まで目線合わせてくれるとかマジイケメン」 「へぇ」そう言いながら三枝君は私をじっと見てる 気がする 「私も前見てなくて」空気に耐えられなくてへへっと笑って見せる 「…パンありがと」 そういって三枝君は友達の輪に帰っていった 「素直じゃないなぁ」なみちゃんがぽそっとつぶやいたその言葉の意味は 私を期待させてしまう悪魔の言葉 「さ うちらも食べよ」 あの日から 何となく松田君によく遭遇する気がする 私気になっちゃってるのかな?三枝君じゃない人を好きになっていいけど さらに倍率高いよ松田君は… 合同体育で隣のクラスと一緒になる 松田君と三枝君が一緒にサッカーをやってるから女子は気もそぞろ 学力なら断然松田君だけどスポーツだとやっぱり三枝君のほうが目立ってしまう 三枝君がゴールを決めるとなんだか誇らしい  自分のクラスの得点っていうのもあるけど やっぱり好きな人のかっこいいところは見ててうれしい そういえば 初めて三枝君と話したのも好きになったのも サッカーがきっかけだったな そう思いながらぼーっとグランドを見てしまった   女子は先にきがえて廊下に出ていた やがて男子の更衣室のほうがにぎやかになる 「あ ふじ パン」 三枝君とばっちり目が合いすぐに言われる いや 私は某有名パン屋か! 「あと牛乳」 そういって財布を投げていきた 「ナイスキャッチ」 「あっ もう 三枝君!」その呼びかけもむなしく 三枝君は更衣室に入っていってしまった 「またぁ」三枝君のごつい財布を握りしめた私を見てなみちゃんがため息をつく 「まぁ 惚れた弱みか 行こ」なみちゃんはそういって私の腕を組んで歩き出す やさしー パンを買って牛乳もゲット 購買を後にしようとするとホールの真ん中で松田君たちとすれ違う そして 松田君と目が合う ちょっとドキッとしてしまう 「あ 君この前の… 三枝のコシギンチャクみたいな子だよね?」 え?私ってそんな認識 「 …」何も返せないでいると 「最近よく俺のことみてるよね?」え?いやたまたまっていうか 「さっきの体育も俺のことみてたよね? もしかして 俺のこと好きになちゃった?」ぐっと視線を合わされてちょっと恥ずかしくなってしまう 私そんなに松田君のこと見てた?自分では気づかなかったよ むしろ三枝君のことばっか考えてたし 「あ ご ごめんなさい あの…」そんなに見てたつもりは… 「赤くなちゃってかわいい」こんなにたくさん人がいる中でそんなこと言われてるのも恥ずかしい 学年一番人気と言っても過言ではないこの人の顔をこんな間近で見て照れない人はいないんじゃない? 「ごめんね でもこないだちょっとぶつかっただけだし タイプじゃないんだ君のこと」大衆の面前でこくってもいないのに…フラれた… 「ちょっと!」なみちゃんが松田君と私の間に一歩踏み出してくれる その瞬間 「お前何勘違いされてんだよ」だるそうな声が上から降ってきてなみちゃんと反対側から何かにふわっと肩を抱かれる  …三枝君? 「ごめんね松田君 こいつ…ふじは俺に惚れてんだよね てかこいつ俺しか見えてないんだ」とても明るくていつもの三枝君のような声なのに なんだか棘があって重圧感のある話し方 「三枝…」顔を上げなくても松田君が三枝君の圧に押されてるのがわかる 「ふじ行くよ」それとは裏腹に 私を呼ぶ声はとてもやさしかった 小学校5年生の時のの声 「あ う  うん」初めて三枝君に手をつながれて歩く もう 恥ずかしすぎて周りを見れない 「ったく 何ほかの男に目向けてんだよ!」小さいいら立ったようなでも切ないような不思議な口調でつぶやく三枝君 「お前は俺のことが好きなんだろ?ほかの男に勘違いされてんじゃねぇよ」 「え?…知ってたの…」 さらに驚くくらい顔が紅くなったのが自分でもわかる 恥ずかしすぎる ばれてた 「好きな女のとはわかっちゃうの なんでも」 え?思わず上げた顔 視線の先には耳まで赤くなってる三枝君 「はい パンと財布」気づくと教室の前まで来ていた 三枝君が催促するように私の前に手を出す 「あ はい」反射的にパンとお財布を三枝君に渡す 「今日部活終わるまで待ってて」 「は はい」 そういって 教室に入っていく三枝君の後ろ姿を見送る 「よかったじゃん」いつの間にか追いついたなみちゃんがにやにやしている 「う うん 」 「ふじー イチゴオレ!」今日も相変わらず三枝君の声が教室に響く 「三枝くーん には優しくしてって言って…」 「いや 神崎さんだから」 そういっていたずらに笑う三枝君 「一緒に行くぞ」そう言って三枝君は歩き出す 三枝君はイジワル でも優しくて私のこと守ってくれる 三枝君のことが大好き                   終わり
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加