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客が来ることも珍しいので、正遵は少しばかり緊張していた。 久々に来店したのはまだ若く見える男女で、会話を聞く限り夫婦のようだった。 「なんだか辛気臭いのばっかりだな」 小さな不動産屋のような、無機質な事務所には正遵を含め3人しかいない。 テーブルを挟んで向いに座っている夫婦は、タブレットと睨めっこしながら商品を選んでいた。 直接商品を見ないで決めるのはリスクヘッジの為で、この店の方針だ。 女性がタブレットのカテゴリー欄を開こうとしたので、正遵は慌てて制止した。 「すみません、『怪物』を取り扱っているのは本店だけなんです。うちの店は『幽霊』しかいなくて」 2人が楽しげに話している中、正遵が急に会話に入ったので、2人は遠慮がちに会釈をした。 正遵は「失礼します」と呟いて、幽霊一覧のページを開き直した。 一見するとホラー図鑑のようだが、これらは全部、紛れもなく店の商品だ。
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