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目が覚めた。
まだ朝も早いはずだ。
白々と明けてきた朝の光が微かに感じられるだけで、まだまだ夜闇の気配も濃厚だから。
だが、この胸の痛み。
もはや生きているのも不思議なくらいだが、この胸の痛みが、自分がまだ生きているということを知らせてくれる。
胸部に銃撃を受けた。
その痛みは一時は和らいだが、こうして朝を迎えて、またズキズキと痛み出した。
この痛みと付き合っていくことが、今の俺が"生きていく"ということだ。
そのことを、痛みに怯む頭と心に言い聞かせた。
目の前で眠っている女はボスの情婦だ。
少し怪我をしてはいるが軽傷に過ぎないから大丈夫だ。
今はまだぐっすり眠っているようだから、このまま寝かせておこう。
スマホは壊れていて全く起動しないので使い物にならず、救援を呼ぶ連絡も出来ない。
だがこのスマホのおかげで、重傷とは言え、俺はなんとか今まだ生きているのだから、感謝こそすれ、スマホに文句を言う筋合いなど何もない。
胸を銃撃された時、この内ポケットに入っていたスマホが少しは弾除けになってくれたおかげで、俺は怪我をしただけでまだ生きていられるのだから。
それに俺が撃たれたことで、目の前で眠っている女が軽傷で済んだのは何よりだった。
俺は胸の痛みに耐えながら、小屋の外を見た。
まだ俺たちを狙っている可能性は高い。
昨夜の銃撃でこちらを仕留めたとは敵も思っていないと思う。
だから簡単に外に出ることが出来ない。
こちらの拳銃に弾は一発だけ残っているが、これが無くなれば、相手に対する反撃も防御も出来なくなるから、むやみには使えない。
まずは相手の様子を窺う事だ。
相手の出方を見て、行動するしかもはや術がない。
俺は撃たれた時、大量の血を流した。
その後応急処置はしたものの、正直、出血多量で死ぬんじゃないかと思っていたくらいだ。
果たして俺の身がいつまで保つのか、全く自信がない。
だがその前に、この目の前の女をなんとかここから救出し、どこか安全な場所に保護したい。
俺は朦朧とする意識の中、小屋の外を見て、相手の様子をまたひたすら窺った。
だが相手も静かにこちらを見張っているようだ。
その姿も小屋からは見えないし、何も動きがなかった。
それから2時間ほどして、目の前の女が目を覚ました。
女は起きるなり、血まみれになっている俺の胸を見た。
「ごめんなさい、私を庇ったばっかりに…」
女はそう言って、少し目を潤ませながら俺に頭を下げた。
「気にしないで。ああしなければ、あんたが撃たれて死んでたわけだから」
「でも…大丈夫?」
女は心から心配した様子で俺にそう言った。
「なんとか」
俺は虚勢を張って、胸の痛みを相当我慢しながら女にそう言った。
俺はまた、外の様子を窺った。
何も動きは無い。
何か動きがあったとしても、こちらはどうすることも出来ない。
武器と言えば一発の弾丸だけ。
もうほとんど、どうすることもできない状況だ。
それに…
俺の意識はどんどん遠のいていく。
もはや視界もぼやけ始めている。
このまま死んでしまうのか…?
その可能性は高いと思われた。
だがその前になんとしても、女をどこか安全な場所に…
そう思いながらも、無情にも俺の意識はひたすら遠のいていくばかりだった。
俺は、もはや気絶寸前の状態だった…。
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