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 シャリ、シャリ、シャリリ。ジュルルル。  真っ黒だったはずが色褪せてきた学ランを着て、青春を駆け抜けるにふさわしい短髪になっている高校生のマモルは、普段は出入りが出来ないはずの屋上に呼び出されている。耳がジワジワと痛くなる十二月の冷たい風が、ヒューッと切り裂くような音を出してマモルの顔に吹き付けてくる。冬はつくづく嫌なものだと感じさせる空気を、マモルはゆっくりと吸い込んで、大きく吐き出して心を落ち着かせる。    マモルは頭の中で考察を巡らせている。僕は今、青春において重要な立ち位置にいる。    クリスマスが刻々と近づいていることは、カレンダーを見なくてもよく分かっている。それは、たとえキリスト教を信仰していなくとも、誰だって無視することはできない特別な日だからだ。ケーキ屋さんが恐ろしいほど忙しくなり、コンビニでは売れ残りが心配になるほどの大量のチキンが揚げられる。街中がイルミネーションで彩られて、多くの若者を普通の感情で居させず、愛しさで埋め尽くす。    そんな十二月の暮れに、マモルは純愛という名の境地に立たされている。雑念など、今は一つも考える隙はない。ただ、目の前の事実を受け止めなければならない。    風は吹き付ける。マモルは今、神によって導かれた運命と向き合っている。
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