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…限界。
攫われる気がないなら、それ以上甘い言葉をかけないでくれ。
抗えないんだ。
みっともなく縋り着いたら手に入ると言うなら、いくらでも痴態をさらけ出すけど、そうではないんだろう?
「…すみません。俺、帰るんで。ヒロさんと飲んで下さい。」
彼女の顔を、見ずに席を立った。
朝、起きた時、右手にスマホを握りしめていることに気づいたのはどのくらい前からだっけ。目が覚めて、待っている着信がないことに落胆しては、カーテンから漏れる朝日から逃れるように枕に顔を埋める。
連絡先なんて交換しなければ良かったのか。
いや、もっと前まで戻って、いっそ出会わなければ良かったのか。
思い出さない時なんてない。
何をしていても彼女に捕われている。
三茶の街は、彼女に出会う前までを過ごした時間の方がよっぽど長いのに、彼女と一緒にいる思い出ばかりに染まってしまった。
どこを歩いても彼女を思い出してしまう。
もう解放して欲しい。
どうしたら、忘れられるんだろう。
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